第二十六話 調査(前半)
やる事がないのでとりあえず訓練をしておく事にした。
イベントの無い時はとりあえず自主練しておけっていうのがこのゲームの基本なのだが、まさか俺がその状況になるとは思わなかった。
オート魔力訓練の魔法で周囲の魔力を循環させつつ、魔法の玉を七つくらい生成して部屋の中を適当にお手玉のように飛ばす。
火、水、土、風、雷、氷、光……っと。まあ俺が使える属性魔法全部だ。
それを更に妖精やら精霊やらの形に変えて、遊ばせる。
こうする事で魔法の精度やらコントロールやら同時操作やらを磨く事が出来るのだ。
今の俺が同時に扱える魔法は十個くらいが限度だが、歴史書を見るに過去の魔女や聖女でも二つ以上の魔法を同時行使出来た奴ってそういないらしいし、これでも上出来だろ。
いやしかし、本当にマジで何も思いつかん。
地下に調べに行けば魔女が逃げて詰み。
俺の行動を誰が見張ってるか分からないし、仮に一人で行ってもバレる可能性は十分ある。
例えば地下室の入口付近に魔女の使い魔とかがいて、そいつが『聖女が来た!』とか叫んだらそれだけで魔女が逃げるかもしれない。
つまるところ、魔女のテレポートを何とかしないと駄目なんだよな。
学園全部バリアで覆ってみるか?
魔女の使うテレポートって要するに身体を分子まで分解して、その状態で高速でぶっ飛んでいくっていう、闇の力に無理矢理生かされている魔女以外がやったら即死待ったなしの荒業なので分子すら通れないほどのバリアで学園を閉じ込めてしまえば魔女は逃げられないと思うんだよな。
けどそこまで隙間なく遮断しちまうと、空気まで遮断するわけで……学園と寮合わせてかなりの人数がいるのに、そんな事をするのは流石にやばいと思う。
短期決戦で決めようにも魔女だって瞬殺はされてくれないだろうし、それに火魔法なんか使われたら最悪だ。
魔女を閉じ込めるはずが、逆にこっちが酸欠に追い込まれて本来絶対勝てるはずの戦いに負けかねん。
先に全員を避難させてからバリアはどうだ。
誰もいない学園をバリアで閉じ込め、そしてバリアを徐々に小さくして内部のものを圧壊させる、名付けて『学園ごと死ね』作戦だ。
しかし生徒全員を避難なんてさせればその時点で学園長や、他にもいるだろうスパイにバレて避難前に魔女が逃げるだろう。
ならば先に学園長をフルボッコにしてみるか?
でもそれをやるには、こっちに大義名分がない。
いくら聖女の権限が凄くても、表面上は何の非もない学園長を一方的にボコボコにしたら流石に周囲の目がね……。
そんなものを無視して強引に進める事も出来るんだが、下手な事をすると乱心したと見られて城に強制送還もあり得るのでこれは最後の手段だ。
奇襲はどうだ。
こう、学園から離れた場所で穴を掘ってその中に俺が入り、そこからゴン太ビームを発射して地面を貫通させて学園地下全部を攻撃するのだ。
これなら確実に先制で魔女にダメージが入るが……一撃で倒せなければやはり逃げられてしまうだろう。
魔女は聖女&魔女の力以外ではダメージを受けないので、当然俺はこの攻撃に闇パワーを乗せるが、残念ながらベルネルから吸い取った僅かな闇パワーではいくら俺の魔力ビームの威力が高いって言っても一発で魔女を倒すのは難しい。
何よりそんな事をしては脆くなった地面に学園が沈んで大惨事だ。
んー……。
んんー…………。
駄目だ、いい案が思いつかない。
『いけるかもしれない』程度のアイデアなら出て来るんだが、確実にこれというのが思い浮かばないな。
やっぱまずは、学園長と他のスパイだよなあ。
何とか言い逃れ不能の証拠を見付けて、そいつらを全員捕まえないと駄目だ。
けど、それをどうするかが問題だ。
全員集めて異端審問でもしてみるか?
ゲームでのエルリーゼの好き放題ぶりを見るに俺の権力なら出来ると思うが……やったら絶対イメージ悪くなるしなあ。
「エルリーゼ様、少しよろしいでしょうか?」
ドアがノックされ、レイラの声が聞こえてきた。
何だろう?
まあ、今は手も空いてるし、駄目だという理由もない。
というわけで入っていーよ。
そう言うと、ドアが開いてレイラと……ベルネルと愉快な仲間達も入ってきた。
負け犬と戦った時の六人だ。ああ……このルートだとマジでそのメンバーでストーリー進めるの?
そんなネタパみたいな構成で大丈夫か?
ちなみに本来は五階に上がってきた時点で捕縛案件だが、あの一件もあってベルネルだけは来ても話くらいは聞いてやれとレイラに伝えてある。
「……レイラ?」
何を話すのかと思っていたが、レイラ達は茫然として部屋を見ていた。
何よ。話す事あるから来たんじゃないの?
……ああ、この部屋を飛び回ってる奴? これが邪魔で話せない?
そんじゃ引っ込めて、と……これでいいだろう。
ほれ、さっさと話せ。
「レイラ。無言では何も分かりませんよ」
「あ……は、はい。
この者達が何やらおかしな話を持って来まして……一度お耳に入れるべきかと」
ほーん。おかしな話?
そのメンバーだとおかしくない話をする方が珍しい気もするけどな。
まあええわ。一応聞いたる。
ほれ、百文字以内で簡潔に答えてみせよ。
「話してください」
「はい……実は先程……」
そうしてベルネルが話し始めたのは、運動場でアイナと学園長が怪しい密談をしていた、というものであった。
学園長がアイナに近付き、『マリーは反則をしていた』だの『君は認められるべきだ』だの甘言で惑わし、途中から論点をすり替えて『この学園にはスパイがいる!』とか『信じられるのは私と君だけだ』とか言って、俺の学園内での行動をウォッチングして学園長につぶさに報告するように指示したらしい。
うわあい真っ黒。
しかしなるほど? エテルナルートとかで俺が近付くとすぐ魔女がそれを察知して逃げてしまうのはアイナのせいだったってわけか。
本来のゲームでは俺を恨んで暗殺しようとし、そんでこの世界では敵に踊らされてスパイと。
何か、どう足掻いても俺と敵対する運命にあるのかね、あの子は。
そのうち学園長に『あの聖女偽物だから殺していーよ』とか言われたら疑いなく剣を持って斬りかかってきそう。
まあ実際偽物なんだけどさ。
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