第十九話 共犯(前半)
存分に魔物をサンドバッグにしてストレスを発散した俺は、コソコソと隠れるように学園内を歩いていた。
ここから俺はレイラに見付からないように自室に戻り、ずっとそこにいましたよと取り繕う必要がある。
護衛役であるレイラに一言の相談もなしに外でヒャッハーしてたなんて知られたら、またガミガミ言われるに決まってるからな。
俺は他人に的外れなSEKKYOUするのは好きだが、自分が正論で説教されるのは大嫌いなんだ。
マウントを一方的に取りたいんだよ。
オレは上! きさまは下だ!!
「エルリーゼ様……?」
ファッ!? 見付かったあ!?
ままま待て、スットコ! まずは落ち着いて話し合おう。
俺は別に外に出てヒャッハーしていたわけではない。
ただちょっと散歩をしていただけだ。
……と、慌てて振り返ったが、そこにいたのはレイラではなくベルネルであった。
何だお前か。驚かせるなよ。
「何をしているんですか? まるで誰かから隠れるように……もしかしてレイラさんですか?」
はい図星です。
くそ、こいつ案外鋭いな?
というかこいつこそ何でこの時間に学園内をウロついてるんだ。今は日が沈みかけていて、何より夏季休暇中だぞ。
俺の場合は自室が女子寮じゃなくて学園内にあるからやむを得ない。
この学園は五階建てなのだが、五階部分は主に来客……まあ王族とかが来た時の為に用意された豪華な居住空間になっていて、普段は使われていない。
俺としては別に、そんな所じゃなくて普通に女子寮でいいと言ったし、むしろ女子寮に行きたかったのだが、それは駄目だとゲスト部屋を自室に強制決定されてしまった。
護衛であるレイラは基本的にドアの前でスタンバイしており、部屋の中までは入らない。
(護衛が休む為の詰所も外にある)
というかずっとそこに立ってなくていいぞマジで。もっとその辺散歩したり外に行って食べ歩きしたりしてこい。
もういい‥‥休め‥‥休め‥‥っ!
俺はそのレイラの目を盗み、何とか部屋に戻らなくてはならない。
出る時は簡単だった。
レイラだって人間だ。ずっと同じ場所に立っている事は出来ない。
具体的に言えばどうしても仮眠を取る時間がある。
学園までついてきた護衛はレイラ一人だけで、後はレイラが仮眠を取っている時だけ代理で学園から選ばれた成績優秀な騎士候補生が数人見張りにつく。
ちなみに護衛は本当はもっと多くの近衛騎士が付いて来るはずだったが、俺が強権発動で止めさせた。
騎士っていうのはこの世界では貴重な戦力で、それを俺一人の為に学園に数人連れて行くのは人材の無駄でしかない。
原作でもエルリーゼ(真)が無駄に自分の護衛として騎士をゾロゾロと連れてきたせいで、色々な場所の守りが手薄になっていたらしい。
そもそも俺に護衛自体がいらないし、しかもここは騎士を育てる学園なのだから候補生とはいえ全員が戦闘要員だ。ハッキリ言って城より安全まである。
それでもレイラだけは断固として聞かずについてきたのだが……まあ一人でずっと護衛をするのは無理なので、レイラが仮眠をとって代理の候補生が見張りをしている時間というものが必ず出来るわけだ。
なので俺はレイラが仮眠を取っている時間を見計らって脱走をした。
勿論前述の通りに見張りはいるが、レイラに比べればザルだ。
まず、見張りは基本的にドアの方向ではなくて、その反対側を向いている。
これは当然の事で、ドアの中の護衛対象を守ろうとしているのだから、当然向くのはその反対側だ。
要人護衛とかでドアの前に立っているSPが通路の方に背中を向けてドアの方に顔を向けていたらただの間抜けだろう。
なのでドアを開ける音は風魔法で見張りに音が届かないようにしつつこっそりドアの外に出れば、まず気付かれない。
(レイラならばこの時点でバレる。魔法で空気の振動とかが伝わらないようにしても何故か勘でバレる)
次に光魔法で光の反射をあれこれ弄ってステルスし、ドアに魔法をかければ後は堂々と見張りの横をすり抜けてしまえばいい。
ドアにかけた魔法は俺オリジナルの『自動返信』魔法で、レイラの質問……例えば『いますか?』などの問いに『はい、いますよ』と俺の声で返してくれる。
そして緊急事態でもない限り側仕えの騎士が勝手に主の部屋に入る事はない。
だが問題は帰りだ。この時間は代理ではなくレイラがガッチリ見張りに立っているので、これを掻い潜って自分の部屋に戻るのはなかなか難しい。
ちなみに窓から飛んで出て行くってのは無理。
窓は確かにあるのだが、外からの侵入対策として面格子がある。ちょっとお洒落なデザインのやつ。
なので窓からは出れない。
ていうか今は俺よりベルネル、お前だよ。
何で夏季休み中に学園内ウロついとんの君。
「俺は借りていた本を返しに図書室へ行って、その帰りです」
へえ、そりゃまた実に学生らしい理由で。
夏季休暇中でもやってるんだ、それ。
まあ課題とか出てるわけだし、その為の資料集めとかに使うだろうから図書室が開放されてるのは当たり前か。
「エルリーゼ様は何を?」
ギクゥ。
俺は……ほら、あれだよ。
ちょっと散歩みたいな?
たまには一人でウロウロしたくなる時とかあるじゃん? じゃん?
そんなわけでどうやってレイラに気付かれずに部屋に戻るかを考えてるところだ。
そう教えてやると、ベルネルは思わぬ提案をした。
「だったらそれ、俺も手伝いますよ。レイラさんの気を引けばいいんですよね?」
おおマジか! 助かる! お前いいやつやな!
さすが主人公は格が違った!
そうと決まれば早速ゴーだ。うまくレイラの気を引いてくれよ。
なあに、でえじょうぶだ。レイラって雰囲気有能っぽいけど、割とスットコだから。
駄目でした。
結論から言えば俺とベルネルは仲良く見付かって二人でお叱りを受けた。
くそ、こんな時だけレイラしやがって。もっとスットコしろよ。
作戦は悪くなかったんだ。
ベルネルが会話で気を引いて、それで少しドアから離れさせた隙に俺が部屋に戻る。そういう手はずだった。
なるほど完璧な作戦っスねーっ。不可能だという点に目をつぶればよぉ~。
……まあなんだ、うん。俺専用って事になってる五階に一般の生徒であるベルネルが入って行ったら、その時点で不審人物認定待ったなしだった。当たり前だよなあ。
でもなあ、ゲームではレイラはもっとガバガバ警備だったはずなんだよ。
ゲームでもエルリーゼ(真)が学園に何度もちょっかいをかけてくるっていうのは前も話したけど、俺と同じように学園に一時滞在してこの五階に住む期間がある。
で、その間は当然五階にレイラもいるわけだが……ゲームだと自由行動時にベルネルが五階に行っても、普通にレイラと仲良く会話出来るし、むしろ話すと好感度が上がってたくらいだ。
ともかく、このままではベルネルが不審者としてレイラにお仕置きされてしまいかねないので、止むを得ずに俺が飛び出してネタ晴らし。そうする事で何とかベルネルは無罪放免になったが、代わりに俺と一緒にお説教を受ける事になってしまった。
すまんベルネル……完全に俺の巻き添えだ。許せ。
でもまあ、何だ。
こうやって共謀して馬鹿やるっていうのはガキっぽいが楽しいものだ。
友達とアホな事ばかりしていた前世のガキの頃を思い出す。
男同士の馬鹿な友人っていいよなあ。
……思えば俺って、いつからぼっちになってたんだっけか。
子供の頃はまだ友達とかもいたんだが、成長するにつれてだんだんと皆も俺のおかしさに気付き始めて…………まあいいか。
ま、ありがとよベルネル。今回は楽しかったぜ。
次はバレない範囲で……あ、いや。怒られない範囲で何かやろうぜ。
あ、でもそれはそうとして見付かったからお前の呼び名降格な。
今までは内心はともかく実際呼ぶ時はベルネルさんって言ってたがこれからはお前なんかベルネル君だ。
次はよろしく頼むよ、ベルネル君。
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