第十二話 これからの予定(後半)

 とりあえず当面の予定は決まった。

 まずリナ・トーマスを探して回復魔法をかけて死亡フラグを折る。

 アイナ・フォックスはレイラにでも調べて貰って、後は向こうの出方待ち。来るなら来い。


 よし、思考終わり。

 そんじゃバリアも解除しますか。


「おはようございます、エルリーゼ様」


 ノックして入室してきたのは、護衛として学園まで付いてきたレイラだ。

 今日もキリッとしていて凛々しい。

 誰だよこの美人をスットコとか呼んでるの。

 俺だよ。


 スットコを従えて教室へ向かう。

 すると周囲がざわつき、生徒や教師が立ち止まって俺を見ていた。

 ふははははは、ちょっとした大名気分だな。控えおろう、頭が高いわ平民共。

 あ、この学園の生徒って大半が貴族だった。むしろ平民は家名もない俺の方じゃねえか。

 控えます。頭が高かったですね、はい。

 しかしこれは確かにちょっと気分がいいな。

 まるで自分が凄く偉い奴になったと勘違いしてしまう。

 幼い頃からこんな環境に置かれていたエルリーゼ(真)が思い上がってしまうのも止む無しと言えるのかもしれない。

 でもまあ、それでもあいつのクソさは擁護出来ないけどな。

 だが思うんだよな。もしもエテルナが最初から聖女として育てられていたら、果たしてあんなに心優しい聖女になったのかと。

 もしかしたらエルリーゼ(真)と同じで、横暴で我儘なエテルナになっていたのではないか……なんてな。

 人間ってのは最初は誰しも真っ白だ。どう変わるかは周囲次第。色の付け方一つで全てが変わる。

 そういう意味じゃ……エルリーゼ(真)も被害者だったのかもしれないな。

 俺? 俺はほれ、もう最初から真っ黒よ。だから憑依転生なんてしても何一つ変わりゃしねえ。

 黒に何を混ぜても黒だよ。


 よし、教室前に到着。

 後は中に入るだけなのだが、何か教室前に誰かが座っていて入るに入れない。

 誰やこの邪魔なおっさん。


「エルリーゼ様の道を阻むなど……」


 スットコが前に出ようとするが、慌てて手で制した。

 おいやめろスットコ、それ高慢ちきな悪役がやる行動じゃねえか。

 こう、取り巻きが『〇〇様の道の前に出たな!』とか言って斬りかかったりするの。

 俺を権力を笠に着た悪党にする気か、お前は。


「ああ……近くで見るとより美しい……。

お待ちしておりました……貴女を我が校に迎え入れられる日が来ようとは……」


 いやだから誰だよお前は。

 改めて観察するが、いまいち誰か分からない。

 というか男キャラなんか一々覚えてないっつーの。

 年齢は……二十代半ばくらいかな。顔立ちは腹が立つがそこそこハンサムな優男。

 目は細め。鼻は高く、顔の輪郭はやや縦に長く見える。

 黒の長髪。首の後ろで束ねていて前髪はオールバック。一房だけ額に垂れている。

 そして世界観を無視して現代風の眼鏡をかけていて、インテリっぽい雰囲気を纏っていた。

 最初は友好的で後で裏切るタイプの顔立ちだ。

 えーと、誰だっけなこいつ。ゲームにいたような気もするんだが……。

 仕方ない。こういう時は有能スットコに聞くに限る。

 視線を向けると俺の意図を察したスットコが咳払いをした。


「彼は、この学園の教師です。名はサプリ・メント」


 あ、思い出した。敵キャラか。

 そうだ、こんなんいたわ。

 こいつはサプリ・メント。キャラクターを作った人が名前を考えるのが面倒で、たまたま近くにサプリメントがあったから、そう名付けられたかのようなキャラクターだ。

 ファンからの通称は変態クソ眼鏡。年齢は25。

 どのルートでも敵としてベルネルの前に立ち塞がり、そしてぶっとばされる小物野郎。

 こいつは熱狂的な聖女信者で、聖女というものに勝手な幻想を抱いて押し付けている。

 勿論エルリーゼ(真)はこいつの崇拝対象ではないし、こいつは早い段階でエルリーゼ(真)は聖女ではないと見抜いていた。

 その理由は『あんなものが聖女のはずがない』という勝手な決め付けによるものだ。

 まあ合ってるんだけど。

 こいつが行動を起こすのはエルリーゼ(真)がざまあされた後で、『やはり真の聖女は別にいた』と歓喜した彼は自分だけの本当の聖女を探し始める。

 そしてその時点で最も好感度の高いヒロインをストーキング・誘拐して自分の理想を押し付けるという死ぬほど迷惑な野郎だ。

 しかしこいつの理想の聖女はこいつの中にしかいない。

 誰を誘拐しようとこいつは満足出来ず、理想との剥離から『聖女はそんな事言わない』だとか『こんなのは私の思う聖女と違う』とか言い出してヒロインを自分好みに調教しようとして、そこで駆け付けたベルネルにボコボコにされて最後は学園を追放される……というのがこいつのゲーム中での活躍であった。

 ちなみにこれは本物の聖女であるエテルナの時も変わらない。

 結局のところ、こいつの『理想の聖女』なんて存在は何処にもいないって事だ。

 こんなのが教師とか世も末だな。


 ま……取るに足らん小物ではあるが、一応警戒だけしておくかな……。

 変な事したらその時は、物語から退場してもらおう。

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