第九章 変化

第九章 変化


 私は昔から人と話すのは苦手だった。

 人と群れるのが嫌いで、一人教室で本を読んでいる時間が多かった。


 群れから孤立する者は、どこであろうと人の視線を集める。

 それは学校であろうと社会であろうと変わらない。


 ただ静かに過ごしていた私は、自然と生徒たちから視線を集めるようになった。

 

 純粋な興味。

 なぜ彼女は自分たちの輪の中に加わらないのか。


 根拠のない嘲笑。

 それ以前に、彼女は友達がいないのだ。

 だから、自分たちのように輪の中に入ることすらできない、そう笑う生徒も多くいた。


 けれど、彼女に目を向ける生徒は後を絶たなかった。


 そして、いざ生徒と話をする機会があったとしても、男子生徒はどこか落ち着きのないようにそわそわして、女子生徒も気を使ったかのようにおどろおどろ話す。

 最初こそ、なぜ周りがこのような対応なのか、疑問に思ったがすぐに察した。


 ハッキリ言って、通う小学校、中学の生徒の中では自分の容姿が整っていたことを。

 加えて、私の両親がいわゆるお金持ちなのも関係がある。


 両親が立派な人なのは認めよう。

 そうでなければ、一代で会社をここまで成長させてお金を手に入れることはできなかっただろう。


 父は言っていた。

「仕事をがむしゃらに頑張っているうちに、気が付いたらお金が貯まっていたし、部下も増えていた」


 全ては父の努力が生んだ結果。

 だから、私にはその恩恵を受けられているだけであって、私が偉いわけでは何でもない。


 ただ、財閥令嬢という肩書は、クラス内で孤立を早めるには十分の効果を発揮した。

 男子には好意の視線を向けられ、女子からは妬みの対象となった。


 人は少しでも周りと違う物を持つ人間を嫌う。


 だから私も、必要以上の会話をしない。

 その必要性を感じなかった。


 もし、私と本当に話をしたい人ならば、そんなこと気にせず普通に話しかけてくれるはずだから……

 王子様のようなイケメンでなくてもいい。

 ごく普通に接してくれる人を……


 そんな考えで、中学時代を過ごした。





 常に一人で、話しかけても冷たい視線を向けられる。

 その視線に耐えられなくなった生徒は、次々と会話を断念して彼女のもとを去っていく。


 繰り返される同様の行動に、いつしか彼女はこう呼ばれるようになった。


 ”氷の女王”



 ただ、財閥令嬢ではなく、容姿に惹かれるのでもなく、一人の女性として扱う人など、ここでもいない。

 高校入学式の最中に、私はそんなことを考えていた。


 それでも、周りからはすでに慣れた視線。

 まるでブランド物でも見ているかのように、好奇心からか嫉妬心からか。

 はたまた、ただの興味か。


 それでも根本は変わらない。

 この高校でも、私は男子からの好意からの視線や、女子からの妬みの視線にさらされるのだ。


 小さくため息を零した私は、今まさに始まったばかりの高校生生活を半ば諦めるように下を向く。




 でも、あの日。

 彼に会ってから、少しだけ私の中の感情に変化があった。

 

 入学してしばらく経ったある日の昼休み。

 中庭のベンチで一人、猫と話す少年を目にした時から。







 綺羅坂怜編スタート

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