第四章 先輩と後輩6
……結局、会長が最後に見せた笑みはなんだったのだろうか。
生徒会室を出てからの帰路の途中も、家に帰った後も会長の最後の表情が脳裏から離れなかった。
会長は俺を指名した理由は、きっとあんな理由ではない。
何か他の理由があってわざわざ俺を生徒会にまで加入させたはずだ。
それが俺に好意がある……なんてまるでアニメみたいな展開じゃないのだけは分かる。
会長の視線には、クラスの女子生徒が優斗に向けるような……熱のこもった視線と言えばいいのだろうか?それを感じなかった。
「……とりあえず様子を見るしかないか」
すっかり昨日の出来事について考えにふけていると、校内には昼休みの終了を知らせる鐘が鳴り響いていた。
「ずいぶんと考え事をしていたみたいね」
隣の綺羅坂はいつの間にかこちらを見ていて、その表情はつまらなさそうにしていた。
「……悪いな無視でもしてたか?」
「いいえ」
彼女は一言そう答えると、視線を前に向け授業の準備を始めた。
俺もそれに倣い、机の中から次の授業の教材を取り出しながら、目の前にまで迫った生徒会の活動に気分を落とす。
「……今日が終わらなければいいのに」
授業が始まると同時に、不可能だが放課後が来ないことを願った。
「それじゃあ気をつけて帰るように」
はい、来てしまいました放課後。
最後の授業が終わり、担任がそう告げると一斉に生徒達は席から立ち上がり、放課後の予定について話し合う。
部活の話をしている生徒もいれば、帰りに寄り道でもして行こうと話をしている生徒もいる。
そんな中、俺は通常より時間をかけて荷物をまとめ、少しでも生徒会へ向かう時間を遅らせていた。
「これから初めての生徒会ですか?」
生徒達の輪の中から一人抜け出してきた雫は、隣に座る綺羅坂には目もくれず俺にそう聞いてきた。
「ああ……残念ながらこれから初のお仕事だ」
「私もできることなら手伝いたいのですが……」
何故か申し訳なさそうに表情を暗くした雫に、俺は頭を横に振る。
「こればかりはしょうがないだろ……嫌だけど行ってくるよ、担当があの須藤だし……」
雫にそう言いながら、元々そんなになかったやる気がどんどん低下していく。
「頑張ってください!」と、小さく胸の前で握り拳を作る雫に軽く返事を返すと、俺は生徒会室のある三棟三階へ歩を進めた。
教室を出る際に、優斗の隣を通り過ぎる瞬間「サボるなよ」と、小さく笑いをこらえたような声で言われた。
絶対に後で小さな嫌がらせをしよう……下駄箱の靴を上下反転させておくとか。
三年生の棟は最上級生の棟だということもあり、二年生の棟である二棟とはどこか雰囲気が違うように感じる。
なんというか……重い雰囲気だ。
自然と足音もうるさくならないように忍び足で歩き、すれ違う先輩とは極力目を合わせない。
そうして歩いているうちに目的の場所である、生徒会室が目の前に見えてきた。
「……もう集まってるのか?」
普通の教室とは違い、生徒会室の扉は白く大きな鉄の扉で、ここから違う世界だとでも言われているようだ。
ノックをする前に、一つ深呼吸をしてから指を当てようとしたとき、後ろから聞き覚えのある声が耳に届いた。
「先輩じゃないですか!よかった、俺一人じゃ不安で」
その声の主は俺と同じく、本日から生徒会に加入する火野君だ。
表情には安堵しているのが見て取れる。
「火野君もまだだったのか……」
「はい!HR終わってすぐ来たんですけど、一棟からだと距離があって」
確かに一棟は三棟から一番遠い場所にある。
俺も教室でノロノロしていたため、少し遅めの到着だが、普通に歩いても五分程度かかる。
それでも火野君よりも早く着いたのだから、一棟から毎日ここまで通うのは少々面倒だろう。
俺の後ろで深呼吸をしている火野君が落ち着いたのを確認すると、俺は小さく二回扉を叩いた。
『入っていいぞー』
おそらく会長の声が扉越しに聞こえたので、俺は目の前の重そうな扉を引いて生徒会室に入る。
後ろから火野君も続くように入室した。
部屋の中は、前回来た時と何も変わっていないが、前回は空席だったところに二人の生徒が腰かけていた。
「ようやく来たな、じゃあ二人に紹介しよう……二年の真良と一年の火野だ!」
「……どうも」
「よろしくお願いします!」
会長の簡単な説明の後に、俺と火野君は副会長と思われる男子生徒と、会計であろう女子生徒に頭を下げる。
「は、初めまして!ふ、副会長の小泉翔一(こいずみしょういち)です!」
「会計の三浦美香(みうらみか)です」
副会長の小泉と、会計の三浦は席から立ち上がり自己紹介の後、同様に俺達へ向け小さく礼をしてきた。
二人は俺と同じ学年で、確かに去年も合わせて何回か見たことがあるような顔だった。
副会長は黒い髪を短く整え、制服をネクタイまできっちりと着こなしている。
会長が気弱と言っていたが、確かに、しっかりと対面したのは初めてだが納得してしまいそうだった。
会計の三浦は髪を後ろで一つにまとめていて、副会長とは違い慌てる様子もなく、俺と火野君の顔を視線が行ったり来たりしている。
一通り簡単な自己紹介が終わると、俺達二人は指定の席に荷物を置き会長の席を見る。
ちなみに俺が副会長の隣で、火野君が会計の隣だ。
「ようやく人数も揃い生徒会らしくなってきたな!」
会長は嬉しそうに部屋を見回すと、両手を机の上に付け、大きな声で告げた。
「これより新生桜ノ丘学園生徒会を始める!」
こうして初めての生徒会活動が開始された。
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