第103話 牢獄

 惑星フローン、ヴェーゼ本部の最深部。


 だだっ広い空間に、檻状の黒い球体が浮かんでいる。

 ダークマターで作られた牢獄だ。


「おのれぇ……特異点め……」


 檻の中でボソボソと呟く、一人の女。

 フローンの元ユニオンマスター、スプリィムである。

 妖艶だった雰囲気は完全に消え去り、今はしわくちゃの老婆にしか見えない。


 誰もいない空間で、ボソボソと呟き続けるスプリィム。

 そこへ、一人の老人がやってくる。


「久しぶりじゃな、スプリィムよ」


「……ジィエロン……」


 現れたのは、現ユニオンマスターのジィエロンだ。


「ほっほっほっ、牢獄は辛かろう?」


「……みじめな私を笑いにきたの……?」


「そんな悪趣味な真似はせんよ」


 牢獄の前で、ジィエロンはスッと目を細める。

 威圧感のこもった鋭い視線だ。


「お主に聞きたいことがあってのう……特異点のお嬢ちゃんの体、どこへ消えたか知っておるな?」


「……はぁ? シュヴァルシルト様の元へ、転送されたのでしょぉ?」


「とぼけても無駄じゃ。シュヴァルシルトの本拠地、第一ウェーブは常に転送を妨害しておる。つまりシュヴァルシルトの元へ直接転送は出来ん」


 ジィエロンの追及に、スプリィムは「ちっ」と舌打ちをする。


「さて、お嬢ちゃんの体はどこへ転送されたのか……吐いてもらおうか」


「……さあねぇ……知らないわよぉ……」


 ウロウロと歩きながら、考え事をするジィエロン。

 チラリとスプリィムを見ると、ニヤリと悪い笑顔を浮かべる。


「そうか、ならば仕方ないのう……“メスブタの刑”と“メスイヌの刑”、どちらにするか──」


「ひいぃっ、第二ウェーブ! 第二ウェーブよぉ!!」


 悲鳴のように声をあげるスプリィム。

 ガタガタと震えて惨めな姿だ。


「第二ウェーブか、なるほどのう……」


 そう言うとジィエロンは、パチンッと指を鳴らす。

 すると、スプリィムを閉じ込めていた牢獄に変化が現れる。


「聞きたいことは聞けた、これでもうお主に用はない。あとは牢獄の中で、ゆっくりと余生を過ごすのだな」


「待ってぇ……お願いぃ……」


 牢獄は徐々にダークマターで塗りつぶされ、完全な黒い球体へと変化していく。

 消えていく隙間から、必死に手を伸ばすスプリィム。


「嫌あぁ……閉じないでぇ……」


「さらばじゃ、スプリィムよ」


「いやあぁぁ……」


 スプリィムの叫びを飲み込んで、完全に閉じられるダークマターの牢獄。


 静寂の中、ジィエロンは牢獄をあとにするのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る