第81話 絶望の一手

「奥の手を見せてあげるわ」


「奥の手? 一体何を──」


 ──っ!?

 強いっ、重いっ、それに濃い。

 スプリィムから感じるダークマターの圧力があがった!

 それだけじゃない、もの凄い違和感だ……。


「寒気がしますわ……、これは一体なんですの?」


「邪悪な気配じゃ、ただのダークマターではない……」


 エルリンとおじいちゃんも感じてるんだね。

 二人の言う通り、凄く嫌でゾクゾクする感じだ。


「奥の手ってどういうこと? 一体何をしたの?」


「フフフッ……何をしたのかしらねぇ?」


 くっ、ムカつく。

 でも今はそんなことを言ってる場合じゃない。

 どんな奥の手かは知らないけど、優勢なのは私なんだから。

 この勢いで、一気にやっつけちゃう!


「エルリン、おじいちゃん、私の後ろにいて! 変なことをされる前に、勝負を決めちゃうから!!」


「待ちなさいお嬢ちゃん!」


 えっ、おじいちゃん? どうして止めるの?


「……スプリィムよ、貴様もしや民の命を……」


「あら、バレたかしら?」


 民の命?

 突然何を言ってるの?


「腐っても元ユニオンマスターってところかしら? ご名答よぉ」


「信じられん、なんと恐ろしいことを考えるのじゃ……」


「民の命とはどういうことですの? おじい様は奥の手の正体を分かったのですか?」


「うむ……エルリン、お嬢ちゃん、落ちついて聞くのじゃぞ」


 胸がザワザワする……嫌な予感しかしない。


「スプリィムの奥の手とは、フローンの民、その命を犠牲にすることなのじゃ」


 ……は?

 フローンの住民を……命を犠牲に?


「おじい様……何を言ってますの……?」


「察しの悪い娘ねぇ……いいわ、教えてあげる。フローンの住民達は今どこで何をしているか、ご存じかしら?」


「知っていますわよ、無理やりコールドスリープに入れられているのでしょう!」


「その通りよ、本部の地下施設でコールドスリープに入れてあるわ。ではなぜコールドスリープに入れてあるか、ご存じかしら?」


「それは……」


「ヒントをあげるわ……地下施設ではねぇ、ヴェーゼの最新技術によって、生物の生命力をダークマターへと変換する実験を行っているのよ」


「なんですって!?」


 生命力をダークマターに変換?

 住民をコールドスリープ……地下施設……生命力をダークマターに……嘘でしょ……。


「まさか……そんな……信じられませんわ……」


「アハハハッ、そうよ! フローンの住民達は、生命力をダークマターに変換され続けているのよ!」


「嘘よ……嘘だと言って……」


「これこそ私の奥の手! 住民の命を削ることで、私は無限にダークマターを使い続けられるのよ!!」


 命を削って生み出されたダークマター。

 だからこんなに違和感を感じるんだ。


「今までは私自身のダークマターで戦っていたわ。でもここからは違う、住民の命を削って、私は無限に強くなるのよぉ!!」


 人の命を犠牲にするなんて、絶対に許せない!


「奥の手なんて潰してやる! ダークマター──」


「いかんっ、お嬢ちゃん待つのじゃ!」


「どうして止めるの!」


「今スプリィムを攻撃すれば、奴は民から削りとったダークマターで防御をするじゃろう」


「うっ……そうなったら……」


「そこのジジイの言う通りよ! ここから先、私と戦うということは、住民の命を削り取るということなのよ!!」


 そんなっ……。


「さあ……絶望したところで、戦いを再開しましょう!!」

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