第63話 特訓!
う……なんだか嫌な予感が……。
マジーメが余計なことをした気がする……。
「ソーラ? ボーっとして、どうかしましたの?」
「ううん、なんでもないよ」
おっと。気を取り直して、こちらはソーラの本体。
今日はエルリンと二人でデート……じゃなくて、作戦の準備!
フローンの街から少し離れて、郊外みたいな場所にやってきたよ。
「さて、今日はダークマターの準備をするんだったよね。ところでダークマターの準備ってどういうものなの?」
「正確には準備というより特訓ですわ」
「特訓? ダークマターなら普通に使えるけど、特訓しなくちゃいけないの?」
「しないといけませんわ。確かにソーラのダークマターは強力です、しかしスプリィムの力は遥か上ですの」
「遥か上……そんなに差があるんだ……」
「残念ながら事実ですわ。今のソーラでは勝負にならない、それほどスプリィムの力は凄まじいものですの」
勝負にならないって、スプリィムはそんなに強いの?
ちょっと自信なくなってきたかも……。
「落ち込む必要はありませんわ、力の差は埋めればいいのです」
「そんな簡単に差を埋められるのかな?」
「普通は無理ですわね、でもソーラなら埋められますの。何しろソーラは特異点ですから、理論上ソーラを超えるダークマターの使い手は存在しませんのよ」
なるほど、エルリンの言うとおりかも。
私よりも強いダークマター使いはいない、ってことはスプリィムは私より弱いってことだよね。
「うん! やれそうな気になってきた!」
「その意気ですわ! では本題にうつりましょう。スプリィムに勝つためには効率的なダークマターの操り方を覚えなくてはいけません、今日はそのための特訓ですわね」
「了解、頑張るよ!」
エルリンは十年以上もヴェーゼにいた、つまりダークマターに関してはベテランさんってことだ。
よし、エルリン先生にしっかり教えてもらおう。
「まず確認ですわ。ソーラはどのようにしてダークマターを操っていますの?」
「うーん……適当にお願いしたらやってくれる感じ?」
「適当にお願い……なんともデタラメですわね……」
デタラメ……そうなんだ。
今まで問題なく使えてたから、これで普通だと思ってたよ。
「普通そんな方法ではダークマターは操れませんの、やはりソーラは特別なのですわ」
「そうなのかな……あんまり自覚がない……」
「本来ダークマターを操るには、明確なイメージと強い思いが必要ですの」
なるほど、それは分かる気がする。
何をどうするかイメージ出来てる時は、上手くダークマターを使えてた。
強い思いっていうのも心当たりがあるよ。
はじめてダークマターを使った時は、すっごく怒ってたのを覚えてる。
「コツがあるってことだね、具体的にはどうすればいいのかな?」
「順番に進めていきましょう、まずはダークマターを感じるところからです。目を閉じて、ダークマターの一粒一粒を意識して、自分の意識と繋ぎあわせるのです。ダークマターを体の一部にするのです」
「一粒一粒……体の一部か……」
「深くダークマターと繋がることで、イメージや思いをダークマターに伝えやすくなりますの」
「分かった、ちょっとやってみるよ!」
すぅー……はぁー……。
目を閉じて、集中して……。
一粒一粒か……なかなか難しいな……。
「自分の意識とダークマターが混ざりあって、ジワジワと広がっていくようなイメージですわ」
ジワジワと広がっていくイメージ……。
すぅー……。
はぁー……。
……ん? 細かい粒みたいなものを感じる。この粒がダークマターなのかな?
この粒の一つ一つと私の意識を──。
「──!?」
何これ? 体が広がっていく!?
……違う、体じゃなくて意識だけ広がってるんだ。
目を閉じてるのに、周りの景色を鮮明に見ることが出来る。
ダークマターレーダーとは全然違う。
「ダークマターと繋がることは出来ましたか? 馴れると街一つくらいの広さまで感覚を広げることが──」
ダメだ、エルリンの言葉が聞こえない。
どんどん意識が広がっちゃって、それどころじゃないよ。
フローンの外のことまで分かる、人口衛星……宇宙船……隣の星……まだまだ広がる。
あの星は……ラハルだ!
ラハルは夜なんだね、住民の皆は楽しそうにご飯を食べてる。
あ! マヤマヤとプヤプヤちゃんだ、二人で幸せに暮らしてるみたい。
今は二人でお風呂に入って──。
「ぷぴゃっ!?」
「ソーラ! どうしたのですか!?」
「いや、大丈夫……なんでもない……」
一瞬で遠くのことも分かっちゃう、つまり覗きも出来ちゃう。
これは悪用してはいけない、ダークマター覗きは禁止だ。
落ち着いて……もう一度ダークマターと繋がって、ラハルの様子を見てみよう。
んん……見えてきた見えてきた……あれはマジーメかな?
「さて、本日も特異点様に祈りをささげる時間だな。身だしなみを整えて……特異点様あぁ……っ!!」
オエエェェッ!?
マジーメ! どうして私の写真に祈りをささげてるの? しかも全裸で!!
身だしなみ? 全裸が身だしなみなの? ただの変態じゃない!!
「──ラ……ソーラ!」
「はっ!?」
「ソーラ、顔色が真っ青ですわ……」
「うぅ……なんでもない……それよりダークマターと繋がれた! 結構遠くまで意識を広げることが出来たよ」
どこまで意識を広げればいいか分からなかったけど、ラハルまで広げられれば十分だよね。
「あっさり出来てしまうなんて、流石は特異点ですわね。それでは次の特訓に移りましょうか」
「うん!」
よぉし、次の特訓も頑張るぞ!
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