第59話 過去最大の粗大ゴミ

「「「孫!?」」」


 ユニオンマスターの孫? それって敵の身内ってことじゃない!

 もしかして敵? エルリンは敵なの?


「正確には、“前”ユニオンマスターの孫ですわ」


「前ユニオンマスター? 一体どういうこと?」


「驚かせてしまいましたわね、順を追って説明しますわ」


 是非そうして欲しい、ちょっと混乱しちゃってるから。


「はじまりは十五年前、ワタクシが生まれた頃ですわ。当時はワタクシの祖父が、フローンのユニオンマスターを務めておりましたの」


「十五年前……私もそれくらいに生まれました」


「ボクもだニャ」


 つまり、私達が生まれたばかりの頃だね。


「祖父は優れたダークマターの使い手で、ヴェーゼの最高幹部でもありましたわ。しかしヴェーゼの命令より第三ウェーブの平和と発展を優先する方で、そのせいでヴェーゼとは対立することもあったようですの」


 なるほど、つまりゴミじゃなかったってことだね。


「祖父のおかげでフローンはとても平和でしたわ。第三ウェーブも平穏に包まれていました」


「いいお話だニャ」


「そんなある日、フローンを一人の女が訪ねてきましたの。女の名はスプリィム、頭がよく、穏やかな性格をした、優秀な人でしたわ。スプリィムを気に入った祖父は、秘書に任命しましたの」


 なるほど、スプリィムさんか。

 美人さんの予感がする、是非お顔を拝見したい。


「ところが二年ほど過ぎたある日、突如としてスプリィムは豹変しましたの。強力なダークマターの力で祖父を幽閉し、自らユニオンマスターの座に就いたのですわ」


「うヌヌ……急展開だニャ」


「エルリンのおじい様はダークマターの扱いに長けた方だったのですよね? そのおじい様を幽閉出来たのですか?」


「スプリィムは祖父のスキを突くため、二年もの期間を費やし機会を伺っていたのですわ。スキを突かれた祖父は捕らえられ、ワタクシの両親も投獄されました……」


「二年間も息をひそめていタ……恐ろしい話だニャ……」


「スプリィムの正体は、ヴェーゼから派遣された刺客だったのです。ヴェーゼの命令に従わない祖父からユニオンマスターの座を奪うことが目的だったのですわ」


 スプリィムさん……いや、スプリィム。

 いい人かなって思ったけど、結局ゴミだったんだね。


「その後のフローンは酷いものでした……スプリィムの命令により、全住民がコールドスリープに入れられましたの。フローンは完全にヴェーゼの支配する惑星となってしまいましたわ」


「コールドスリープ……冷凍睡眠ですね。そこに無理やり……酷い話です」


「エルリンはどうしていたのかナ?」


「当時ワタクシは子供でしたから、幽閉されることはありませんでしたわ。スプリィムの洗脳により意識と記憶を改ざんされ、ヴェーゼの一員として育てられましたの」


 ……は? 洗脳?

 子供だったエルリンを洗脳?


「それから十数年、操られるままにヴェーゼの悪事に加担し続けてきました……ところが先日、ワタクシにかけられていた洗脳が解けましたの」


 十数年ずっと操られていた?

 悪事に加担させられていた?


「洗脳が解けてからは、密かにヴェーゼ内部の情報を集めていましたの。分かったことはスプリィムの悪政と、苦しむ第三ウェーブの人々の実態ですわ」


 子供のエルリンを無理やり両親から引きはがして、十年以上も操り続ける……。

 そうか……。


「ワタクシは捕えられている祖父と両親を助けたいのです、そして人々が笑顔で暮らせるように──」


「ありえない……っ」


「ソーラ、どうかしましたか?」


「顔が怖いニャ……」


 ……血管がブチ切れそう。

 スプリィムっていう女がどんな奴かは知らないけど、絶対に許さない。

 クソ女め、過去最大の粗大ゴミだ!


「ソーラ、落ち着いてください!」


「ダークマターが溢れてるニャァ」


「えっ……あ、ホントだ」


 ふぅ、思わずダークマターをまき散らしちゃってた。

 怒りで我を忘れるなんて、今までこんなに怒ったことってないかも。


「あの……大丈夫ですの?」


「ゴメンゴメン! もう大丈夫だから、話を続けて」


「ええ……実は少し前に、洗脳が解けていることをスプリィムに気づかれてしまいましたの。しかしワタクシは諦めておりません、一人きりでも、何年かかってもスプリィムの手からフローンを解放して見せますわ」


 なるほどね、それでゴミ溜りに追われてたんだ。

 私達を逃がそうとした理由も分かったよ、敵が大きすぎるもの。


「色々とお世話になりました、でもここまでですわ」


「うん? 何が?」


「え? 何がって……」


「もちろん一緒に戦うでしょ?」


「そうですね、エルリンが一緒だと心強いです」


「味方は多い方がいいミャ!」


「ワタクシの話を聞いていましたの!? これ以上一緒にいると迷惑になります、あなた達までヴェーゼに狙われることになりますわ!」


「実はそうでもないんだよね」


 次はこっちの事情を話す番だね。


「私達はね──」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る