第四二四回 避けられない道、通り過ぎると。


 ――通り過ぎてみると、意外と何とかなるものなの。今ではもう普通の感覚。



 だから、きっと大丈夫。


 藪からスティックのように現れた、抜き打ちテスト。早坂はやさか先生が満面な笑顔で告げた。


 実は、実は実は、ちゃんとした理由があるの。急な対応だから仕方のない部分も。緊急事態宣言が発令したため、やむを得ずなの。もしかしたら休校の可能性もある。



 ……だとしたら、中間考査も危ういから。


 今回の緊急事態宣言は、厳しめの方なの。だから……だからね、


 早坂先生の考えでは、この抜き打ちテストのより、クラスの皆の学力を知りたいと思ったからだそうなの。それに応じて授業の方向性など、善後策を考えたいと言っていた。


 もう少し、芸術棟での語らいの時間を味わいたかったけれども、


 恵比寿えびす公太こうたが『恵比寿君』或いは『公太君』と、僕も梨花りかも呼べるようになるまでに至りたかったけれども、次の機会へと持ち越しとなった。……それは、再び会うまでの遠い約束を、暗黙の了解として含ませながら。そう、また会えるから。



 食事後すぐ。


 それに近い設定で、教室で、そのテストは颯爽と行われる運びとなった。


 そのテストを受けているクラスは、中等部三年生全般。……とはいっても二クラスだけだけれど。僕ら三人の席は横並びで前の方。だから、カンニングしようものなら、すぐバレちゃうポジション。けど、そんな気は毛頭ないの。そのコンセプトは、あくまでありのままの学力が知りたいから。カッコ付けの高得点なんて望んでいないから。


 だから、

 ――抜き打ち上等、との思いで挑んでいる。


 避けられない道に挑んでいくのも、たまには楽しいと思える午後の風だった。



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