第四二三回 そして静かな御飯の森の影から。


 ――それをいうなら湖畔だよ。とのツッコミも承知で、このサブタイトル。



 響く体内時計。先程までの緊迫感は何処へやら。これではまるでコメディーのノリ。二人同時に……「そういや、すっかり忘れてた。SNSの件で頭いっぱいだったからね。それにしても、相変わらず正確ね、梨花りか千佳ちか。呼吸もピッタリで」と、可奈かなは言う。


 もうすっかり、いつもの可奈。


 涙も乾いて、ツンデレキャラも復活。それから、少しクスッと……遠慮がちでもあるのだけれど、恵比寿えびす公太こうたも笑った。ギロッと睨む梨花、僕は「まあまあまあ」と宥めた。



 ――なぜならもう、事件は解決なのだから。


 でも梨花はまだ……恵比寿公太のことを気に入らない様子だ。和解するには、梨花が恵比寿公太と和解するには、まだ時間がかかりそうだ。……と思っていたら、


「探したぞ、君たち。

 一日三食。お昼すっぽかすと体に悪いからな、持ってきてやったぞ給食」


 と、早坂はやさか先生は上って来た。三階まで。その言葉通り給食を持って。瑞希みずき先生も給食を運ぶのを手伝っている。四人分……僕ら三人と、恵比寿公太の分も含まれていた。


「おやおや、どうしたんだい? 泣きべそ掻いて」


 と、早坂先生は恵比寿公太の顔を見るなり、そう言って、「ほら食べな、食べたら元気になるからな」と給食を手渡した。恵比寿公太に。グスッと啜りながら、徐に食べる給食を。……でもって僕は、告げる。「あの、僕が彼を……ちょっとばかりその、叩いちゃったから……かもしれないの」と。すると、早坂先生はプッと笑って、


「千佳君、それは『思いっ切りぶったから』だね。……かもしれないではなくて、そうなんだろう。わかるよ、誤魔化さなくてもね。彼をぶったことは、そうしなきゃならない理由があったと思うからツッコまないけどね、誤魔化すのは『メッ!』だからね」

 と、穏やかで優しい口調ながらも、厳しくもあって、何もかも御見通しのようなの。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る