第三九三回 父と娘の緑の帰り道。


 ――まだ夕方にはならない午後の風は、ほんのりと緑の香りを運ぶ。



 本日の三月九日は、路面電車が大好きなバンドの曲名で、僕もまた電車が大好き。本当ならパパと一緒に、電車に乗ってスタンプラリーしたかったの。……でも、不要不急の外出自粛で、我慢なの。いつまでかはわからないけれど、僕がまだ子供のうちにしたい。


 来年は中等部三年生。


 僕は進学するけれど、梨花りか可奈かなと一緒に。きっと高等部まで、あっと言う間。大人の階段を上っちゃうの。太郎たろう君とも、もっと経験も深く、濃密な関係になるだろうから。


 だから今この時なの。


 パパと一緒に、鉄道博物館に行けて良かった。――それから、ゼロ系の模型を買ってもらったの。ギュッと宝物宝物……でも、本当の宝は買えないの。世界で一人だけなの、僕のパパ。パパと一緒ということが、何よりの、僕にとっての宝なの。



 パパが、僕のパパということは偶然のようで必然。……なら、今日あの場所でパパと会えたのは偶然? 後に語られるけれど、必然の方だった。


 心配して、僕を探していたパパ。じゃあ何故、僕が京の都にいるって、わかっちゃったの? それはGPS……ではなく、僕のお部屋の机の上に、大いなるヒントがあった。


 鉄道博物館の資料。及びパンフレット。

 ずっと無意識に飾っていた。ゼロ系が好きなことも……知っていたそうなの。


 じゃあ、何もかも御見通しってわけね。――と、その語らいも電車の中でのこと。国の鉄道から私鉄沿線に乗り継ぐ。僕とパパだけの帰り道。手を繋いで歩いている。



 そして最寄りの駅。そこで下車。


 改札口で梨花と、可奈が待っていた。……梨花も可奈も二人ともニッコリと、

「おかえり」と、怒らず迎えてくれた。「ただいま」と僕は返した。パパにも。



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