第三八〇回 ……でも、まだ問題が。


 それは、怜央れお君のこと。意識はない。白い肌には無数の傷、火傷にも見える。


 ――僕は目の当たりにする。幻でもなく朧気でもなく現実。

 地に足が着く感覚が、これは紛れもない現実と自覚させる。


 こんな時に何だけれど、……現実はリアルに見せるの、ありのままを。痛々しい傷も男の子の部分も。破裂しそうなほどキャパが超えそうだけれど、逃げない。心の何処かでは逃げたいと……梨花りか可奈かなが来るのを待つべきか、と思うも、刻一刻を争うの。


 きっと……

 きっと、そんな状況……



「行くよ、怜央君」


 僕は背負う、怜央君を。


 僕とあまり背丈が変わらないのが救いだった。三階から階段を下りるから、背負ったまま。でも、やっぱり男の子で、見かけによらずガッチリして重かった。


 ……冷静。


 その様に見えるかもしれないけれど、装っているだけなの、きっと。本当はすぐにでも泣きそうなの。でも、僕がしっかりしなきゃ、怜央君はどうなるの? そんな思いが脳内に、溢れる程に広がって……きっと火事場の馬鹿力で、彼を背負ったまま一階まで……


 下りたの。でも、ここからまだ先がある……


 出入口の、大きな病院みたいなガラスのドア。強化ガラスの開けた向こう側に、立っているの。顔を合わせるなり、僕は涙でグシャグシャになって、


瑞希みずき先生……」と、小さな子みたいに号泣に至っちゃって、


「と、とにかく保健室へ行きましょ。まず、この子の手当てが先決みたいね。……代わって。わたしが背負うから。それに千佳ちかさん、泣いてちゃわからないから、ちゃんと落ち着いたら、話してくれるかな? 何も心配いらないからね」


 僕は、怜央君を背負う瑞希先生についてゆく、……嗚咽しながら保健室まで。



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