第三七五回 素顔を忘れそうなマスク生活……せめて今だけは。


 ――吹雪。さっきまで身をもって体験した世界。今はお家。太郎たろう君のお家だけれど。



 寒い寒い寒い……と二人揃って連呼する中、入れる暖房機器のスイッチ。それはストーブ? 石油? 電気? それともエアコン? または別のもの? 冷暖房完備の……いずれにしても御想像に御任せする。ガチガチと震えていたのも落ち着いて、


 そっと……そっとマスクを外すの、僕のを。


「こんなにも可愛い素顔なのに、

 再会してからは、お外では……ずっとマスク。それに不要不急の外出自粛……千佳ちかと行きたいとこ、もっともっとあったのに……どうしてこんなに間が悪いんだ、俺は……」


 じっと僕を見る太郎君。

 真っ直ぐに見る瞳に……溢れる涙? 太郎君が泣いている?


「これからだよ。……そう思えるの、僕には。

 沢山のイベントがあるんだよ。新型ウイルスの収束を願って、その暁には、間に合えば日の本で。東の都でのオリンピックも開催されるし、何よりも二〇二五年には千里区(千里の町の正式名称)のビッグイベントの万国博覧会が行われるんだよ。その頃でも僕らはまだ未成年。大学でいっぱいいっぱい青春してると思うから」


「……誰と?」


「もちろん太郎君と。まだお嫁さんには早いけれど」


「いいのか? 今からそんなこと言って。……もしかしたら、俺よりもいい奴と巡り合えるかもしれないぞ。例えば、さっき一緒にいた都築つづき君なんか……例えばだけど」


 ちょっと目を逸らす太郎君。


「もしかして焼いてるの?」


「い、いや、例えばだから……断じて、そんなこと」


 もろ図星! もうわかっちゃうの。わかりすぎるくらいに。いつもはカッコいい場面ばかりの太郎君だけれど、こんなのもOK。――可愛い太郎君も、僕は大好きだから。



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