第三七一回 令和三年二月十四日――千佳のレボリューションなバレンタイン。


 ……それが、今日この日なの。



 思えば……

 思えば、初めて……


 きっと、僕が愛している以上に、僕は愛されていたの、こんなにも。


 弾ける乙女心が……

 ギュッと胸に手を添える。潤むのがわかる瞳……



 去年は雪の風景だった。一昨年は……雨だったね。今年は、小春日和な風景。このビッグなウインドウから見えるよ。黄色のカーテンがヒラヒラと……開け放たれている。


 まるでまるで……

 ロミオとジュリエットのような演出。なんて素敵な。そして上がってくるの。


 ――銀色の架け橋を! 僕のいるバルコニーに繋がっている。僕の名を呼ぶ、呼びながら「千佳ちか!」って。僕も呼ぶの、手を差し伸べながら「太郎たろう君!」って。纏っているのは白色。共通する色。白色はね、恋人の色だから……


 因みにね、ドレスとタキシード。……あくまでイメージの中だけってことで。

 それにね、


「それ、とある懐メロのタイトルじゃない」


 ……って、梨花りかが言うの。いつの間にか、僕の背後にいた。


「り、梨花……これはね、ムードというか」


「何々? 一人だけチャッカリと、ドレスなんか着ちゃって。それに梯子はしご? 今時そんな演出する人なんていないよ。それにお外、皆見ちゃってるよ」


 って、あらら。太郎君、すっかり注目の的。


 この後、ハグハグとキスキスする予定だったのに……お家の周りは野次馬だらけで。僕はね、カーッと顔を赤くしながら「あっ、何でもありません!」て、言うしかなかった。



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