第三四五回 疾走! もしくは疾風。


 ――風のように。或いは影の如く。そうならば、超カッコよいのだけれど、


 ややブラックなイメージ。

 漂うブラックなイメージ。それは怨念のイメージ……


 そして疾走するのはお車。人力ではなくハイブリッド。通称『ブラックタイガー』と呼ばれる如何にも箱という感じのお車だ。その運転手は……何故かティムさん。



 疾風のような運転。されど安全運転。……まさに理想的な運転テクニック。

 その運びの渦中で、可奈かなは高らかに、


「集めるわよ、スタンプ。いいわね、あなたたち。

 梨花りかたちよりも早く集めてお宝ゲット。負けるものですか、あの派手派手女に」


 と宣言……だけど、


「あの派手派手女って、梨花の何なの? 可奈は会ったことあるの?」と、素朴な疑問。


 されど、大いなる疑問。なぜ可奈が、そんなにムキになってまで、あの派手派手女にこだわるのか、先程の梨花との通話中に電話を切ったのか、その理由も密かに含め。


「チラッと見かけたの。梨花と仲良くお話してて……

 何でなの? 私の方が梨花のこと、何でも知ってるのに。……恥ずかしいこともところも何もかも。梨花を好きな気持ちは、誰にだって負けてないのに」


 完全なまでに嫉妬。燃ゆるジェラシー。


 ちなみに僕は知らない。派手派手女とも面識はない……と思う。なら、向こうも僕のことを知らないはず。僕が梨花と出会う前に、梨花が東の都にいた頃のことだから、妹がいること自体、その子は知らないと思える。で、今頃は嘸かし……『あれ? 梨花に妹さんなんていたっけ? 確か一人っ子だったよね?』と、疑問による言葉を並べていることだろう。だから突然現れて、ただ興味本位だけで、その子の驚く顔が見て見たい。


 太郎君は太郎君で考えている様子。……だけれど、


 纏まらないようで、只々車窓から流れゆく景色と、過ぎゆく音楽を奏でている。



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