第三四一回 すると、御来客現れり。


 ――そしてベルの音、高鳴れりだ。遠くまでこだまを引くように。



 先刻の夢から、ようやく胸の高鳴りが治まった僕は、玄関のドアを開ける。本日二人目の訪問者。もちろん知っている子で……その子もまた、


梨花りかいる?」……だった。何で梨花ばっかなの? と、その心の声は、胸の中だけで収める。お顔は、あくまで笑顔で……と、思っていると、


「大丈夫。千佳ちかにも用事があったから。

 ……ほら、差し入れ。太郎たろう君もいるんでしょ。たこ焼き、皆で食べよっ」


 という具合に、可奈かなはお見通しなの。


 何もかも……。僕が梨花にヤキモチ焼いていることも、もしかしたら。でも、そのことには一言も触れずに、『夫の用事』ならぬ『爪楊枝』で、僕のお部屋、太郎君も一緒に三人で突き合うホクホクなたこ焼き。とっても美味しく頂く次第となったのだ。



 お腹も満たされたところで、


「ところで何の用だったの?

 梨花は、すぐには帰って来ないと思うよ。何かイベントがあるらしいから」


 と、僕が言うと、可奈の表情は急変して、


「……きっと楽しくしてるんだわ、あの派手派手女と。東の都の渋い谷だか、原の宿だとか、どっか知らないけど、アーバンスタイル気取ってさ。勝負してやろうと思ったのに」


 と、言い放つけれど……


 何の勝負? と、僕には理解できずで……


 何となくだけれど、マシンガントークなら可奈に敵う者はいないような気がして、無敵を誇れるとは思えるのだけれど……それじゃ不十分? と問う。届かぬ声をもって。


 囁く程度のその様な声。僕も太郎君も。


 それ以上は二人の問題。……いや、梨花と可奈、そしてもう一人の三人の問題かも。



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