第二九七回 それぞれの想いが紡ぎ合う場所とは?


 ――眠ったかどうか、わからないような感覚で朝を迎え、何とかお昼時。



 無事に、無事故に睡魔なく……午後の授業も。


 それもこれも昨夜……深夜に、梨花りかと言い争いになって、お互い興奮したまま。だからお互い……「二人ともどうしたの? 喧嘩でもした?」と、可奈かなが問う始末。


 教室では席も傍で、ましてや昨夜も同じお部屋で、登校に至るも一緒だったのに、ソッポ向いて口も利かず、フンッ! っていう感じでお互い……譲らずだったの。


 一日の授業が終わる頃、ホームルームも直前、


千佳ちかさん、今日は芸術部はお休み。

 その代わり、少しばかり付き合ってくれるかな?」


 と、令子れいこ先生が僕に……あれ? 何で僕だけ? と、そのまま問うてみた。


 で、その結果、僕は車の中……


 緑の中を走り抜ける、そう真っ赤なポルシェ……って今時? 帰り支度を済ませるようにと言われ、学園には戻らないからとも。直帰するから、帰りは送ってくれるそうだ。


「どこ行くの?」と、僕のその問いには、


「行ってみてからのお楽しみかな? 今の君に必要なことだから」と、


 令子先生は運転……あまり慣れない運転をしながら、答えにならない答えを奏でた。



 その先は病院!


 ……以前も来た病院で、向かう先は――葉月はづきちゃん。


 両脚で立って……一歩、一歩……あっ、よろめいて、

 ガシッと、僕は傍まで寄り支える。で、「あっ、千佳先輩」と、葉月ちゃんの声が耳元に。整った呼吸、しっかりとした口調で、「来てくれたんですか?」とも加えた。


 ……でも、葉月ちゃんはまた立とうと、僕から離れようとして、身を起こして、


「千佳先輩、僕は僕の力で立ちますよ。僕は僕の力で歩きますから」と、言った。



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