第二八七回 ――月明かり。二人きり。


 窓から零れる光。同じく外へ流れ出る湯の煙。


 小さいながらも、一軒家の太郎たろう君のお家。古き良き時代の趣を残している。



『一緒に入ろうねお風呂』と、僕は、太郎君のお母さんの前にも拘らず、太郎君にそう言った。三人で囲むテーブル、夕食時に言ったことだ。……賑やかだったのに静まった。


 そうだよね、僕たちもう中学生だから。


 小さい子じゃないから……そうだよね。……「大丈夫だから、千佳ちかちゃん」

 えっ? 「太郎、千佳ちゃんと一緒に入ってあげてね」と、言ってくれた。


 太郎君のお母さん。漢字は違えど、僕と同じ名前の千夏ちかさん。



 そしてドキドキと、同じお部屋……

 太郎君のお部屋で一緒にゲーム。人生ゲームではなくて、列記とした℮スポーツなの。


 二人並んでコントローラ。同じ画面に集中……でも、ちょっと近くて、肌が当たるの。


「ち、千佳、また『ウメチカ戦』あるそうだぞ、年明け早々に」


「う、うん、聞いたよ、美千留みちるから。また頑張ろうね、℮スポ」


「そ、そうだな」


「そ、そうだね」


 段々と、会話もチグハグ。

 そして、そろそろ……太郎君のお母さんも公認の、


「お風呂……入ろうか、そろそろ」


「うん、そうだね。入ろ、お風呂」


 まともに見る顔。……ドキドキが止まらない。それでも僕は、小さい頃にできなかったパパと一緒にお風呂に入ること。そして、太郎君との洗いっこも含めて……


 そう、小さい頃に戻るように。

 

 パパと一緒にお風呂に入る、小さな子みたいに。


 裸だって……もう太郎君には見られているから、初経験も超えているから。



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