第二六六回 心して、僕は正面から受け止める。
――語ること、語られること。紐解かれ、今と繋がる。
草創の美術部と、今の芸術部が一つとなる。そのために心する僕と
この場所には、未完の絵と……裸体に絵の具を帯びる
……静かに、語られる。時計の針の音が研ぎ澄まされるほどに。
令子先生の、胸の傷……
それは心臓の部位を示す。命に係わる病を患っていた。そのことを知ったのは、中等部二年生の夏……当時の
『――僕って欲張りだね、
もう満足だと思いたかったのに、まだ瑞希ちゃんと描きたいの』
その令子先生の言葉……
それが、この百号のキャンバス。『波打ち際で戯れる二人の天使』の始まりだった。
二人で描き始めて、……間もなくのことだ。
二人が中等部二年、夏を終えて秋のことだ。
令子先生の心臓は、限界を迎えた。……鼓動が、止まったのだ。その時の、瑞希先生の悲しみは計り知れないものだったと、恐ろしいほど目に浮かんだ。僕までグッと、泣きそうになった。……そこから後のお話、僕も梨花も泣いてしまった。
令子先生は言う。――その時、僕は死んだのだと。
今、令子先生の傷跡の奥にある心臓は、ドナーのもの……だそうだ。その人のお陰で僕は蘇生したと語っていた。ドナーさんと人生を共にしているのだとも、語っていたの。
二人は遠く離れた場所。地球の反対側もの距離だ。
瑞希先生は描き続けた、一人でも。その当時……は、ボロボロになりながらも、身も心も。筆がもう、握られなくなるまで。そして美術部に……廃部の指示が下るまで。
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