第二二五回 ……あの、忘れていたわけではないから。


 ――それはギロリと、僕を睨む梨花りかに対してだけれど。



 書くと読むを話題に、

 僕と可奈かな、そして葉月はづきちゃんとお話が盛り上がっちゃって……決して梨花を仲間はずれにしているわけではないから。そんな疎外感に浸らないでと、そう思うばかりだから。



 ――ねえ、覚えてる?


 梨花のエッセイに巡り合わなかったら、きっと僕も『書くと読む』に登録していなかったし、拙作の『新章たるウメチカ!』も誕生していなかった。そして今、この五人は揃っていなかった。……同じ学園の芸術棟の一階。序でに述べるならボクッ娘が四人、私が一人の珍しい巡り合わせ……本当に稀だと思う。更に部活動の初日なのに……


 これほど息の合ったメンバーは本当に稀だ。

 きっときっときっと、二度とない巡り合わせなのかもしれない。



 そんなことを思いながら、初日は夕陽とともに過ぎゆく。


 少し切ない感じもしたけれど、明日を楽しみに僕らは五人揃って正門を出る。葉月ちゃんの車椅子を押すのは令子れいこ先生。お家までの……葉月ちゃんのお家までの道程は、本当にあっという間だ。交わす言葉も数多く残っているけれど、また明日のお楽しみだ。


 そして前回とは違う光景を目の当たりに、

 すっかり打ち解けているのだ、令子先生と葉月ちゃんのママ。


 口数はあまり多くない令子先生だけれど、なあに? いつもと違う。まるで井戸端会議のママ友の関係に変化を遂げているようだ。令子先生のお喋りは意外にも、可奈のマシンガントークを上回るようで、可奈自身も圧倒されているような模様だ。


 令子先生は、自分ではコミュニケーションが弱いと言っていて、だから絵を描き続けていると言っていたけれども、もしかしたら、僕らが羨むほどに最強なのかもしれない。



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