第二〇八回 「よいしょ」と「ふわり」と。


 ――表現や言葉で悩みながらも、進めるエッセイ。今は、この子のために。



 舞台は、緑の香り深き中庭。つまり学園内で……


 目の当たりのこの子は小径、或いは小石が原因で横転……車椅子ごと。赤がアクセントカラーの白いワンピースの姿。……とにかく大きな怪我はなさそうだけれど、


「よいしょ」


 という掛け声は、まずは車椅子を起こすためにも、そして、ここから進むためにも必要なこと。僕が新章を迎えるエッセイが、エタらずに、この先へと進むために。


 その思いを込め、

 小さな前輪と大きな後輪は今、地に着いた。あとはこの子だ……丸くて大きな眼鏡から覗く、涙で濡れた不安げな表情。その不安を取り除くためにも、


「ふわり」


 と、思いのほか軽くて、車椅子ということは……脚の方も心配したのだけれど、大丈夫そうみたいで、無事にね、車椅子へと乗せてあげることができたの。つまり僕は、この子を倒れている状態から抱え上げて……お姫様抱っこして、車椅子に乗せてあげた。


 これって、

 ℮スポーツのため、筋トレした成果なのかな? ちょっと感激だ。


 この子も、安心したのか、

 すっかり泣き止んでいた。とにかく、この場所も僅かながらに、避暑地にはなっているけれど、危険な暑さに変わりはなくて、もっと涼しい場所へ車椅子を押してゆく。


 するとね、

 そうだ! 芸術棟へ。そこへ行くの。


 完全なる避暑地なの。そして僕は伝える、この子へ。


「ちょっとここで待っててね。ホームルームが終わったら迎えに来るから。……それからね、お家まで送ってあげるからね」と。少し……僅かだけれど微笑んでくれたの。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る