第百九十七回 ……かえりみち。


 ――お月様は、この夜の情景を、ロマンチックに演出してくれるの。



 なら、やっぱり汗が気になるの。……太郎たろう君は「大歓迎」と言ってくれるのだけど、できるなら梨花りかと同じように、洗いっこしたいの、太郎君と……


 お月様にも、太郎君にも、見られちゃったから……全部。ぼ、僕もね、同じく見ちゃったから、太郎君の……全部。思い出すと恥ずかしいけれど、見てほしかったから。



『――僕のすべて。

 梅田うめだ千佳ちかという、一人の女の子を』


 でもね、学校で洗いっこは何かと……

 シャワー室まで移動するにも、先生とは限らず、見つかると大騒ぎになるから……


 だから、また明日なの。


 学校ではない場所での、ソーシャルディスタンスを守った遊園地でのデート。肝試しは終わったからね、「お化け屋敷はなしよ」と、小さな約束をしてから、お家へ。



 ――太郎君は、玄関まで送ってくれた。


 そして思うの。お母さんに顔を合わせる時、何だか……いつもの自分ではないような気がして……って、大好きな人と初めての体験をしたのだと、顔に出そうで……


 入室! いやいや、お家に入ると、


 あれ? お母さんがいない? 鍵は……確かに開いていた。するとパパ? でも、まだお帰りには早い時間。灯りもともっていて? 部屋中……僕の部屋、そこには。


「お帰り!」


 と、梨花がいた。ウッとなる。お母さんよりも、どう顔を合わせたらいいの? と思っていた矢先。こんな急だとは……「た、ただいま」と、いきなり動揺しまくり。


「千佳、太郎君と……しちゃったのね」と、?の付かない梨花のお言葉だった。



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