第三十三章 明日からは葉月。でも今は、このままでいたいの。

第百九十三回 だから今、僕はここにいる。


 ――それは、前に通っていた学校。たった一か月だったけど、記憶に残る風景。



 そして教室。二年生の教室……僕には未経験の場所。この学校で太郎たろう君と一緒に、二年生になれなかったことを実感すると、何だかギュッと、胸が締め付けられるような、


 そんな感覚で、涙が誘われそうな感じで……


「とりあえず、席に着こうか・・・・・・


 という太郎君の言葉で、ハッとなって、僕は……僕は席に着いた。とりあえずの席、とりあえずの着席で、黒板を前に、それでもって教壇も前に、太郎君の隣に僕は座った。



 もちろん、ここには僕の席はない。


 僕は、この学校の生徒ではないの。……何か、何だかな。


「恋しくなったのか? この学校」と、太郎君は言うのだ。


「……多分、違うと思う。

 ただ、本当に辛いことばかりだったのかな? もっとよく見てたら、もっと感じあえたのなら、あのウメチカ戦のように……君も僕も笑顔で、この場所にいられたと思

うの」


 と、僕は言う。太郎君を目の前に、そう答えた。……それが、僕の答えだ。


「今お前が座ってる席、そこな、神崎かんざきの席だ」


「へえ、太郎君の隣なんだね」


「驚かないのか?」


「うん。彼女……美千留みちるとはもうお友達だから。メアドも交換したし、この間もちょっぴり対戦したんだ、オンラインで。それに何より、僕の大切な読者なんだから」


 エッヘン! という趣。もちろん『ウメチカ』の読者で、フォロワーなの。


「お前って優しいね。俺には真似できないな……

 それにチャッカリしてるというか、女の友情って、男には理解できないな」


 まあ、驚いていたのは太郎君の方で、……ある意味、それが肝試しだったのかもだ。



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