第百六十一回 その試合が終わったなら、


 ――跪く。


 その試合を拝見していた身だけれど、そんな僕の前で流れる汗と息も切らしながら、そのまま跪いて、神崎かんざきさんは土下座した。そこが中央の……試合用のPS4・5の傍ら。買い物を楽しむ一般客にも見えるよう設置してあるスクリーンともいえる大画面に、その模様は映し出される。神崎さんだけではなく、他の三人も続けて土下座したのだ。


「ちょ、ちょっと」


 と、動揺する僕にも拘らず……


星野ほしの、星野にしたことは、こんなことをしても許されることではないけれど、星野がいなくなってから、とても後味が悪くて、本当に取り返しのつかないことを……やらかしてしまって、こんなことでしか、星野に反省してることを伝えられなくて……」


 と、泣き声。……額を地に着けて、神崎さんは泣いていた。


 他の三人も。……日野ひのさん、野々宮ののみや君、綾乃あやの君。神崎さんと同じ思い。


 すると、僕は……僕は、すると、


「ふざけるな!

 千佳ちかはな、千佳は……お前らなんかよりも十万倍も、本当に死にたいと思うくらい辛い思いをしてきたんだぞ! 今だってな、忘れたくても忘れようがないトラウマに苦しんでるんだ。俺は……千佳がいなけりゃ、俺は、お前らをホントぶっ飛ばしてやりたいよ」


 と、太郎たろう君は怒鳴る。これほど怒った太郎君を見るのは初めてで……


 ボロボロに、僕以上に泣いていた。


「……太郎君、ありがと。

 でも、もういいの。……もう大丈夫だから」


「千佳? まさか、

 こいつらを許すと言うのか? こいつらは、お前に一生の傷を残したんだぞ」


 僕はしゃがむ。神崎さん……たちに「顔を上げて」と言って、その上で……


「第二試合。僕と勝負してくれなきゃ、絶対に許さないんだから」と、告げた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る