第百五十九回 ――もうやだ!


 と、僕は大きな声を上げる……上げた。


 梨花りか可奈かなもお母さんも、みんながみんな僕を見る。特に太郎たろう君、跪いたまま……



「僕のためなら、もうやめて太郎君」


「……ごめんな、

 千佳ちか、もう限界だよな? 今まで、ホントありがとうな……」


 ハッとなる。


 太郎君が、握っていた僕の手を離そうとする。そして立ち上がろうとする。


 僕は握る。立ち去ろうとするそんな気配を漂わせる太郎君の手を、僕は捕まえた。


「何でそうなるの?

 ……償いだなんて、そんな悲しいこと言ったら、僕、本気で怒るよ」


「千佳?」


「僕は逃げない。……逃げちゃ駄目なんだ。あの子たち……神崎かんざきさんたちも、ウメチカ戦に参加するんだったよね? 僕らと対戦するんだよね?」


「ああ、あいつらが一回戦を勝ち残ったら……あいつらも腕を上げてると思うから、きっと勝ち残って、二回戦で俺たちと対戦することになるな」


 お互いもお互い……


 固唾を飲むと、もう涙はなかった。


「太郎君、僕のことを本当に思うなら、神崎さんの相手は僕でタイマン勝負。手は出さないでほしい。そして、僕がこの壁を乗り越えるのを見守ってほしいの」


 壁……その壁は、僕が乗り越えるための壁。


 フラッシュバックする過去を、今こそ倍返しにして乗り越える。……なぜなら僕は、太郎君を愛している。――そう。梅田うめだ千佳は、霧島きりしま太郎君を、心から愛しています。


「よく言った、我が娘よ」


 と、お母さんは満面たる笑顔で、僕に近づき頭を撫でた。この場はもう和やか。



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