第百四十三回 だけれど、試験は個人のものであって、


 ――その人の分まで受けることはできない。……思いの中だけでのことなのだ。



 令子れいこ先生の、その表情から察するにあたり、きっと僕と同じ。


 今は保健室にいる梨花りかを心配する気持ちは、僕も可奈かなも一緒。鳴り響く『ウェストミンスターの鐘』……が試験終了を告げる。理科の試験は終わった。


 でも、梨花は別の日に、

 理科の試験を設けてくれるそうだ。だから今は、ゆっくりと、


 ゆっくり休んでほしい。そう願うばかりで颯爽と駆けつける保健室。僕と可奈は一緒に入室、すると……「梨花」「梨花」と、僕ら二人、声を上げずにはいられなかった。



 ――梨花が、

 ニッコリと僕らを迎えていた。ベッドの上、上半身を起こして……


 そこには保健の先生、女の先生で谷山たにやま先生という人だけれど、その人も、傍らでパイプの椅子に座って、ニッコリしていて……な、何と、あやとりを施していた。


 ならば射撃も得意なのか? と思いきや、


 ……僕と同じで梨花も、シューティング系のゲームは苦手なのだ。球技を行うにも、顔でボールを受けてしまうくらい苦手なのだ。二人揃ってそうだから……可奈からは「あなたたち、ボール遊びは禁止ね。これまで梨花が二回、そのうち一回は千佳ちかと一緒に鼻血出して保健室へ行って……いつかは病院へ搬送されるイメージしかないし」と、辛口。



 まあ、それはさておき、


「来てくれたわよ、お友達」と、谷山先生は梨花に声をかけて、

 梨花は僕らを見て……「ごめんね、可奈……」と言いかけて、可奈はぎゅっと梨花を抱きしめて「私の方こそごめん、言いすぎちゃったね、昨日……」と、泣き声で……


 僕は傍らで、そっともらい泣きで。――今はこのままで。二人だけの世界だから。



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