第百四回 そして、着いてみると。


「……って、何処へ?」


「ちょ、ちょっと、今さらそれはないでしょ?」


「僕ら登校してるのだから学校でしょ、学校!」



 そう、その通りだ。言うまでもなく、僕らが到着した場所は学校。……正確には学園と呼ばれている。私立大和やまと中学・高等学校。今は、そこが僕の学校だ。


 二か月ぶりとは思ったけど、よく考えるとね、四月に一回、僕らは此処を訪れた。午前中のみだけれども重要なこと。あるのとないのとでは、本当に……本当に大違いだ。


 新たな学年のクラスメイトたちの顔合わせ。

 その中でも、僕ら三人は前の学年と同じく、同じクラス。そして担任の先生……


 西原にしはら令子れいこ先生。担当は美術で、大富豪の娘。


 だからといってお金持ちなだけではなくて、面白い先生。……それもそのはずで、瑞希みずき先生とは中学以来からの大親友。――と、情報通な可奈かなが、そう言っていたの。



 いずれにしても長い休校で、長い自粛生活。


 此処に集う生徒たちも、どんなにかストレスが溜まって……ギスギスした空気、それが脳内で予想されていたのだけど、教室に着いてみると、思ったよりも普通……


 此処に転校する前の学校……市立天王てんのう中学校の教室の空気が連想されていたから、今そう思えるの。――この同じ時間、此処とは別の場所に於いて、もう僕の存在も跡形もなく消えたと思われる教室。太郎たろう君はそこにいる。瑞希先生はその教壇に身を置き……


 かつて、僕をいじめていた生徒たちは如何に?


 でね、僕を乱暴した生徒たちは? 男の子たちはどうなの? ……ふうふうと、前向きになれない重き過去。考えたくないけれど、その場面見える思考の罠くりかえし、


千佳ちか、千佳!」と、僕を呼ぶ声聞こえ……ハッとする。


 零れる涙の目の当たり、梨花りかと可奈が僕の起こり得る発作を止めてくれたのだ。



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