第六十七回 そーしてそして、……やっと言えたの。


「粗茶ですけど、どうぞ」


 ――と、その一言を。しっとりとした御嬢様のイメージを持ちながら。



 コーヒーの……淹れ方を知らず、それ以前に僕は和風好み。もしも、今よりも、もっともっと先だけれど、妄想から創造へと……想いが爆発した太郎君のお話に便乗すると、結婚式はウエディングドレスよりも和装がいいの。太郎たろう君のイメージは、教会のようだけれど、僕の求めるシチュエーションは、畳の一室。


 ……抹茶ともいかず、普通の、

 ドラッグストアで食品として販売しているような『香り引き立つ緑茶』


 急須に入れ、お湯を注いだものだ。正座及び女の子座りで、湯呑をもって分配する。


 勢いとはいえ、太郎君の僕への想い……この上なく嬉しかった。


 強引だけれど、グイグイッと引っ張ってくれるのが、僕は大好きで……今もこの傍らに座る。その場所とは、台所ではなく四畳半の僕のお部屋。大の存在感を放つ三十六インチのPS4・5のモニター。卓袱台擬きとなるその上に、黄色のNPCノートパソコンが位置している。


 そして……


 先程までの暴走から、ようやく解き放たれた太郎君は、

 ――大人しい。大人しく静かな中でも、向かい合う梨花りかが見守る中でも、僕の入れたお茶を嗜む。……傍らには僕がいる。そして嗜む。「おいしい」と、コメントを残した。


 その言葉が宝。


 自信となって、もう少し大きくなったら、具体的には花のJKの頃、この頃こそは、茶の道を学習して……抹茶を振る舞ってあげたい。もっともっと気品高き女性となって。


 ……でもね、


「今の千佳ちかでも、充分魅力的だよ」と、太郎君が言うの。


「今からそんなこと言っていいの? 僕たちまだ十三だよ……」と、僕は言葉を返す。


「だから、お前、ずっと俺の傍にいろよな」――と、太郎君は、その言葉を残すのだ。



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