第42話
光の彼方
宙を飛ぶ箱は、砂の原に穿たれたうろを辿って、随分と長いこと宙を舞った。
「このうろは、この世界の苦しみの表象だ」
男は、そう言うと支持棒を操る。
と、見る間に箱は反転し、あたりの景色が翻る。
斜めになった砂の海と空の狭間、遠く遥かに別の島(くに)が見える。
この世界には、どれほどの島があり、どれほどの人が暮らしているのだろうか。
そして、砂の海に打ち捨てられた「砂人」…
この男は、この世界に私と共に来たという。
私たちが「やって来た」のは、どこかの「島」から、なのだろうか。
空を渡る船というのは、この宙を舞う箱のことなのだろうか。
私は、まだ何も知らない。
私たちは何も喋らない。
もとより、男に問い質せるだけの知識がない。
自分たちが目にしているものが、未だよく飲み込めずにいる。
現実感のない、空虚な景色があたりをよぎっていく。
男は、そんな私たちを、有無を言わさずに、宙を飛ぶ箱もろとも何処かへ連れ去っていく。
そして…私たちは、それを目にすることになる。
その信じられないほどの異様な大きさの…
天空に向け、一本の巨人の槍のように聳え立つ、異界の建造物。
それが…「空を渡る船」だという。
男は、宙を飛ぶ箱をその槍の足元に慎重に下ろすと、私たちを促して、箱の外に出る。
遥かに見上げる巨大な円柱。
その頂は空の一点を指し、目くるめく光に呑み込まれている。
「これを造るのは大した手間ではない…けれど、これを打ち上げるのは、まだ、難しい」
男は、目を細めて巨大な槍を見上げ、ややあって、私たちの方へ目を転ずる。
「この世界に眠っている力(エネルギー)を蘇らせねばならない…」
男は大地を…砂の海原を遠く見渡す。
押し寄せる砂の波、地の底に消えた溢れる水…
この世界、不可思議なこの世界。
男はその秘密を知っているのだろうか。
私たちには、何ひとつ分からないというのに。
「あの、光り輝く空の彼方にある故郷(ふるさと)へ戻るために、この星の力を、蘇らせる」
男は、言う。
私たちにか…それとも、自分自身にか。
銀色の大鑓は、降り注ぐ光の彼方に向けてそそり立っている。
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