第41話

目論見(くわだて)


男は再び私たちを階上の大広間へ誘う。

丸い頭に長い尻尾の得体の知れない物体が静かに横たわっている。

床から伸び、差し込まれていた幾本もの細い筒はすでになく、それだけが広い床に置き去られている。

 男は、その物体に空いた空洞の中に入り込むと、私たちを軽く手招きする。

 私たちは恐る恐る中へ入る。

 そこは四方を覆われた箱のようになっていて、座席が四つ設えられている。

 男は私たちを座席に着かせると、扉状のものを閉め、箱を密閉する。

 そして、手馴れた様子で、何やら機器を操作する。と、手前のテーブル状の台で、細かな光が明滅し始める。

 男は、その台の上の幾つかの支持棒に手を触れる。

 すると、私たちの座っている箱全体が、大きな音を立てて、震え始める。

 次第にその震えは激しくなり、ほどなく、箱そのものが動き出すのが分かる。

 奇妙な感覚…

箱の外の様子はまるで分からない。

と、突然、箱の四方の視界が開ける。

壁を覆っていた何かが取り払われたのか…

驚いたことに、目の前には何もなく、遥か下方に港の街並が見える。そして、その先には、どこまでも砂の海が広がっている。

宙に浮いている…

この箱は飛んでいるのか。

男の言っていたことは本当だったのか。

私は思わず床から足を持ち上げる。床が抜けてしまうような気がして。

そんなことをしても意味はないのに…

 箱は、砂の海を下に見ながら、宙を進む。

 どこまでもどこまでも日に焼かれた白い砂の原が続いていく。

どこまでもどこまでも…

と、目の端を黒いしみがよぎる。

見る見る近づいてくるそのしみ。

それは、砂の原に口を開けたうろ。

水を汲み出すために砂の海に穿たれた井戸…

さらに箱は進む。

すると、また砂の原に黒いしみが現れる。

そして、また…

男は、私たちが砂の海のうろの存在を十分に認めたのを見越して、言う。

「このうろは、ただ闇雲に砂の海に掘られている訳ではない」

 男は、少しの間を空け、振り向かずに続ける。

「うろは砂の流れに沿って開けられている。そして、砂は、その地下深くを流れる川の流れに従っている」

 男は、そう言うとまた押し黙る。箱の中には、宙を飛ぶ機械の振動音だけが鈍く響きわたる。

砂の海の底に流れる川…

そんなものがあるのか。それもその上を覆う砂を従わせる…自らの流れと共にその砂を押し流すほどの…

男は言った。

「地下深く穿(うが)たれた亀裂が、『星』を内と外へと分かち、広大な空間が、全てを飲み込み、消し去った」と。

砂の海の底に広がる水、川、海原…

男は「地表に海を蘇らせる」と言う。

この男は、いったい何をしようというのか…



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