第39話

機械仕掛けの館


 男は、私たちを、また別の場所へと誘った。

 螺旋の回廊を昇り、辿り着いた先は、四隅の一角が大きく切り取られた大広間だった。

 壁際には金光りする筒が幾重にも絡み合い、天井からは、重たげな鎖が幾本も垂れ下がっている。

 角で折れ曲がり、金属の輪で止められた筒と筒のつなぎ目から、時折、白い蒸気が勢い良く吹き上がる。

 男は、広間の真ん中で立ち止まる。

 そこには、金属で出来た得体の知れない物が置かれている。

丸い頭に長い尻尾が生え、頭の上に二枚の大きな薄く細い板を乗せているその物体には、床から、幾本もの紐状の細い筒が差し込まれ、その上、かすかに唸り声を挙げている。

 男は、これで宙を飛ぶと言う。

 

 さらに、男は部屋を移り、見晴らしの良いテラスへ出る。

 そこから見下ろすと、建屋の裏に広がる広場に満々と水を湛えた大きな掘割が見える。

 男は、私たちを横目で見て、ニヤリと笑う。

 私たちが、ぽかんと口でも開けていたのだろう…


 男は、私たちを下の階へと導いていく。

螺旋の通路を随分と下ったところで、大きな扉の前に出る。

男は、扉の脇の何がしかの装置に手を触れる。

すると、扉は、小さな唸りを挙げて左右にするすると開いていく。

そこに現れたのは、この世界では、ついぞ見たことのなかった円形の車。それが、幾重にも重なり、互いに力を及ぼしながら、大きなひしゃくを遥か下の方から引き上げ、地下の水を機械仕掛けで汲み上げている。

汲み上げられた水は、さらに上方に上るひしゃくに小分けにされ、先の掘割に流し込まれる。

「ここで、水を手にした者の力は絶対だ」

 男は私を振り返る。

「それは、おまえにも、分かるだろう」


男は、既にその島(くに)の実質的な「王」であった。

男は、私が失ってしまったと思われる知識を用いて、この島に機械の力を持ち込んだ。

人力と自然の力に頼って暮らすこの世界の人々には、機械の力は圧倒的な支配力を持つ。

男はそれを上手に利用した。


「この島には、ありがたいことに、機械を使う素地があったんでな」

 男は言う。

 この島の者たちが儀式めいた奇妙な手法で手に入れる「砂」は、古くから動力源として、一部の者のみに密かに利用されてきた経緯があった。

 その技術は、この世界に似つかわしくないほど奇妙に機能的なものであったが、そのおかげで、この島に人々は暮らし続けることが出来た。

 私と女が暮らしていた島から、遥か遠いこの島は、季節による寒暖の差が激しいという。

 受け継がれてきた技術によって、島は、季節を通じて人が暮らせる場所となっている。

「ここには、何もない。しかし、何でも作り出せる。それは、もとから、この『星』にあったものだからだ」


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