第23話
古文書
私たちは再び地下の土蔵にいた。
整然と連ねられた書物の列。
しかし、それは、私にとって最早ただ単に並べられた紙の束ではない。
背表紙に綴られた文字を見れば、その内容を推し量ることが出来る。
私は「海」に関わる書物を片端から手に取る。
比較的新しいものから、埃にまみれ壊れかけた書物まで、私は何日も地下の土蔵で「海」の記述を追った。
始めのうちこそ傍らにいた女も、日を重ねるに従い、私をその場に独りで置いていくようになる。
私は次々と書物を手に取る。そのどれにも海についての記述がある。けれど、どれも曖昧な表現でその「海」の姿を語っているだけ。それが、「砂」の海なのか、「水」の海なのか、それすら詳(つまび)らかでない。
詩とも歌とも取れる言葉の羅列…ここには、学術的な文章、いや、それ以前に散文は存在しないのか…
どれくらいの日数が過ぎただろうか。私は食事を取るとき以外は、地下の土蔵に籠もっていた。
かなりの数の書物を、ざっとだが読み散らかしたおかげで、今いるこの場所…この世界の姿は、おぼろげながら掴めてはいた。
三つの太陽が巡るこの地は、その大地のほとんどを砂に覆われた灼熱の地で、その中にぽつんぽつんと島状の都市が、それぞれ一人の王をいただいて「国」として個々に存在している。
各々に交流はなく、ただその間に広がる広大な砂の海を行く「船」のみが、島の間を行き来しているに過ぎない。もっとも、その船とて、人や文物の交流に供される訳ではなく、ただ荷役者としての「砂人」を商うがための人買い船に過ぎない。
「砂人」を買うのは、この地の唯一の「人」である「山人」。そして、「砂人」を商うのは、物言わぬ人さらい…木の船でいつ果てるともない砂の海を滑る、ただひたすらに。
彼らが何者であるか、その答えは、まだどの書物にも見つけ出せない。
そして私は、唐突にその記述に出会う。
『どこまでも広がる天と地の境を覆う水。寄せては返し、また寄せては返しして岸辺を洗う。』
それは、背表紙に、かろうじて「めぐる海の果て」と読める文字が記された朽ちかけた書物の冒頭一節だった。
その書物は語る。水は果てしなく広がり、人々はそこに木の船を浮かべ、足しげく行き来をした…と。
水は折り重なり遠く連なって、水の原となる。それは、正に水の原…海原。
書物は、その海の時代の国…島(くに)の繁栄を映し出す。
異国と交わり、豊かに物が溢れ、遠い国の人々が集う港の情景。
しかし、その隆盛は、突如として終わりを迎える…
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