第10話

小部屋


彼らは再び白い回廊を抜け、テラスを越え、棟を渡る。私は、白一色の建屋から、また、色の溢れる部屋へと連れてこられる。

いくつかの部屋を抜けると、金飾りの男は一つの小部屋に入り、身振りでそこにいるように示すと、私を残して、女とともにどこかへ行ってしまう。去り際、女はまた微笑を残す。その微笑は、私にその小部屋に留まるようにと、無言で語りかける。

 私は部屋を見回す。

 この山城の中の他の部屋とは異なって、部屋には他の部屋に通じる出入り口が一つしかない。

 寝屋として与えられている部屋は、中庭に面している大広間だったが、この部屋の窓は外…峰の頂に向かって開かれている。

見上げれば山肌は裾野と変わらずに地肌を覗かせ、傾斜は頂に向かって一層険しさを増す。

けれど、その頂上はわずかに白いものに覆われ、三つ子の太陽に照らされ、そこだけまばゆく輝いている。

私は思い返す。

砂の海を渡ってきた自分を。力なく船べりに横たわっていた人々を。そして港…。

私はここで何をしているのだろう。

しかし、記憶は何も呼び覚まさず、空白が意識の上を白く澱み隠す。

私は何もない部屋で、行き場をなくし、独り動けずにいる。

そのまま、ずいぶんと長い時間が経った。

三つの太陽は、一つ一つ順に視界を通り過ぎ、遠く砂の原の向こう側に沈んでいく。

部屋は薄暗がりに包まれ、呆然としたままの私を、身の置き所のない静けさの中へ押し込めようとする。

私は与えられている大部屋にすぐさま取って返し、決して言葉を交わすことのない「仲間」たちと、味気ない夕食を囲みたいと、心から思った。

明かりのない部屋はますます暗くなる。

大部屋に戻ろう。

私がそう決めたその時、部屋の入り口の方に明かりが差すのが見えた。

そして、ほどなく現れる人影。

それは、あの大柄な女だった。

女は明かりと食べ物を盛った盆を持っている。

女は壁に設えられている棚にそれを置くと、また微笑んで部屋を出て行く。

そして、ほどなく、椅子を二つ持って引き返してくる。

女は微笑みながら何か言う。その身振りは食べ物を食べるよう促している。

私たちは椅子に腰掛け、私は食べ物を口にする。

女は微笑みながら、時折、私に話しかける。食べ物の説明でもしているのだろうか。

もちろん私には何を言っているか分からない。

ただ、薄暗がりの明かりに照らされ、女の微笑みが朧に妙に艶かしく見えた。



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