第9話

微笑


どれくらい待っただろう。

 私の耳に、近づいてくる足音がうつろに響き始める。

 足音は規則正しくリズムを刻む。そのリズムは近づいてくる者が一人でないことを教えてくれる。

広間に現れたのは先程の金飾りの男、それに、同様の金飾り、といっても明らかにデザインの異なる飾りを付けたもう一人の男、さらに見るからに華奢な色の白い女、そしてその身を今までに見たどれよりも色鮮やかな美しい衣装で包み込んだ大柄な女、その四人だった。

四人は私をしばらく黙ったまま見つめる。

 私は思わず息を止める。静けさが時間を凍り付かせる。

 固まった時間。それを打ち壊したのは、色白の女の、細いがよく通る声だった。

 何を言っているのかは、変わらずに分からない。

 しかし、黙ったままの私に、女は矢継ぎ早に言葉を投げかける。

 それは、明らかに何かの返答を期待しての問いかけと分かる。

 私は問いの分からぬままに口を開く。

「残念ながら、言葉が分からない」

女は、それを聞くと一瞬驚いた様子を見せ、その後、満足そうにして私に話しかけるのをやめた。

女は、後から来た金飾りの男に何か囁くと広間を出ていく。その後に最初の金飾りの男が付き従う。

 残されたのは三人。

 男は、私に付いてくるように指図し、別の出口から部屋を出る。

 私は、男のどこか横柄な態度が気に入らず、その場を動かぬまま、視線を脇へ投げた。

 と、ちょうど、そこで、もう一人残された大柄な女の視線と交差する。

 女は私の顔をすっと見据える。そして、微笑む…とても、ゆっくりと。

 人の微笑み…思えば、この砂に覆われた土地で目覚めて以来、初めて接する人の暖かみではなかったか。

 私は彼女の顔から視線を逸らすことが出来なかった。

 女はその私を促すように目線を出口に向け、何か囁く。

 私は言われるがまま…正に、言われるがままに、部屋の出口に向かう。彼女の微笑みを失うことのないように。



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