第66話 何でそんなにかわいいの?

「お姉ちゃん、あたしトイレ行ってくるね。」

 ナノハは席を立ち、読んでいた絵本を戻しに行きながらトイレに向かった。

 マユリと二人きりになったほむら。何だかソワソワしてきた。折角の機会だから何か話したいのだが、いざとなると何を話していいかわからない。

 とりあえず・・・

「今日はいい天気ですね。暑くなりそう。」

 在り来たりだが、天気の話題から始めよう。

「そうだね。室内にいると外の暑さ忘れちゃいそうだけど・・・物凄そうだね。」

 マユリは外に目を向けながら言った。時刻は正午近く。太陽は高々と上り、地上を容赦なく焦がす。そろそろお弁当の時間だが、外で食べるのは間違いなく危険だ。どこで食べようか・・・

 マユリは昼食の場所を心配し、ほむらは次の話題を考える。そしてほむらも、昼食の時間がきていることに気付いた。

「マユリお姉さま、もう少しでお昼の時間ですね。よかったら一緒に、近くのお店でお昼ご飯・・・」

 ほむらは行き付けのフレンチに誘おうとしたのだが・・・

「ごめんね。ボクたち、お弁当持ってきてるから・・・」

 申し訳なさそうに断るマユリ。折角誘ってくれてるのに、本当に申し訳ない。でも仕方がなかった。

 この図書館には飲食スペースがあるのだ。マユリ達は、元々そこを利用する予定だった。

 肩を落とすほむらだが、しかしそれも一瞬のこと。それよりも何よりも・・・気になるのはそのお弁当のこと。

 マユリが料理上手だということは、マユリを愛すものたちにとっては当たり前の情報だった。


 もしかして・・・お姉さまの手作り?


 見てみたい!


 だとしたらそれを確認するためにも・・・


「そうでしたか。あっ、実はほむほむもお弁当あるんです。ほむほむもお姉さま達と一緒にお昼いいですか?」

 モジモジと不安そうに聞くほむら。断られるのが怖いのだ。もちろんマユリはそんなことはしない。

「うん、一緒に食べよ。あっ、でも早く行かないと席埋まっちゃうね。ナノハが戻ってきたら直ぐにイートインスペースに行こう。」

 二人はナノハの戻りを待つ。

 程なくして・・・

「ん?どうしたの、お姉ちゃん。もしかしてあたしのこと待ってた?」

 待ってました。

 三人揃ったところで、2階にあるイートインスペースに向かった。

 案の定。

 イートインスペースは混んでいた。が、席が空いていないわけではない。

 急いで席を確保する三人。良かった。後5分遅かったら埋まっていたことだろう。

「どれ、お弁当出そうか。」

 マユリはそう言うと、リュックの中から二人分の弁当を取り出す。

「?そう言えばほむらちゃん。お弁当どこにあるの?」

 小物しか入らない様なポシェットを肩から下げているが、どう考えても弁当が入っているとは思えない。

「今持ってきてもらいます。」

 ほむらは指をパチンと鳴らす。と同時に現れるボディーガード。いつぞやの彼女だ。手には三段重のお弁当を持っている。アリスといいほむらといい、どうもお嬢様ってヤツは豪華な弁当が好きらしい。・・・いや、この二人だけかな?

「ありがとう。下がっていいよ。」

「御意。」

 姿を消すボディーガード。

「帰らなくてもよかったのに・・・」

 マユリはちょっとガッカリだ。折角だからほむらのボディーガードともランチしたかったのだ。

「もしよかったらお姉さまもナノハちゃんも食べたいのあったら食べていいですよ。一人じゃ食べきれないので。」

 三段重を広げると、確かに一人では食べきれないような量の、豪華な食材がみっちり入っていた。

 しかしこれにはほむらの思惑があるのだ。そう、物々交換だ。あわよくば弁当ごと交換してもらうつもりだ。

 姉妹は一斉に弁当箱の蓋をとる。その直後、辺りに漂う食欲をそそる香り。

「わ~い。待ちに待ったお姉ちゃんの手作り弁当だ!」

 

 やっぱりか!!


 ナノハが答え合わせをしてくれたお陰で、予想が確信へと変わった。

 ならば是非とも食したい!

「お姉さま~🖤ほむほむのお弁当と交換しませんか?」

 単刀直入とはこういうことを言うのだろう。駆け引きなんかするつもりは毛頭ないほむら。

 少し迷うマユリ。そして・・・

「いいよ。でも、ボクそんなに食べられないから分けっこしよう。」

「はい!喜んで!!」


 やったーー!やったよーー!


 嬉しさのあまり、踊り出しそうになってしまうほむら。そこはグッと堪えた。

 テーブルの上には三人のお弁当が密集している。ほむらは早速マユリの作ったおかずを箸で掴み、口へ運んだ。

「んーーーー!」

 口内に入れた途端、旨味が口の中に広がった。まさに幸せの味。こんなの食べたことがない。きっと、愛しい人の手料理ということもあるのだろう。毎日でも食べたい。つまり結婚したい。

「ほむらさん美味しそうに食べますね。どれ、じゃああたしもいただきます。」

 ナノハはほむらにつられて、三段重の方ではなくマユリの作ったおかずを食べる。

「うん!おいちー♪」

 口の中目一杯に頬張り感激の声をあげる。無邪気な少女らしい、気取らない食べ方だ。

 しかしここで何故か、ほむらはナノハを見て目を丸くしている。


 な、なんて可愛らしい食べ方なの!


 ほむほむも色々と研究してきたのに。


 素でここまで極めてるなんて・・・


 ナノハに見とれるほむら。そして、思ったことをつい口に出してしまった。

「お姉さま、この子ほむほむにください。」

「駄目だよ?」

 真顔で拒否された。

 ちょっと怖い。

 ほむらとしてはナノハをくれと言うのは、一割方は冗談のつもりだった。つまり九割は本気なのだ。

 

 あっ、でも待って?マユリお姉さまと結婚すれば、この子はほむほむの妹になるってことだよね。


 そんなことになったらほむほむ・・・


 ・・・・・・


 ツー


 鼻血を流し始めるほむら。一体何を想像しているのやら・・・


 この後、マユリからポケットティッシュをもらい数枚鼻に詰めたほむらは、一心不乱に、周りの視線など一切気にせずマユリ弁当を平らげるのだった。


 そしてそこには、今までほむらが求めてきた『妹的可愛らしさ』という概念は微塵もなかったという・・・

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