第65話 妹と図書館

 整然と並ぶ本の群れ。右を見ても左を見ても本・本・本!


 ここは・・・天国?


 図書館という空間は、本当に本好きには堪らない場所だろう。

 マユリは人並み以上に本が好きだ。しかし、そんなマユリよりも妹ナノハの方が、本が大好きだった。

 それはナノハの夢に関係していた。ナノハの夢、それは・・・

「わぁ、新作の絵本がある。やったぁ。勉強させてもらお♪」

 絵本作家。それがナノハの将来なりたい職業だ。かわいい絵が好きで分かりやすい物語が好き。きっと夢を叶えてもらいたいものだ。

「ナノハ決まった?じゃあ、あそこで読も。」

 マユリは妹を連れ、外の光が入るテラス席に向かった。そこそこ座先数はあるものの、席はほとんど埋まっている。


 あっ、あそこ空いてる。


 一つの机を囲うように3席空いていた。マユリはナノハの手を引き、走らないように、でも急いでその席を目指す。が、あと一歩、いや、あと半歩遅かった。一人の女の子が一席取ってしまったのだ。公共の場所だから、それが悪いということはない。それに席はあと二つ空いている。相席にはなってしまうが、とりあえず座ろう。

 マユリは席に座る前に相席の女の子に挨拶をすることにした。

「すみません。相席失礼します・・・って、え?ほむらちゃん?」

 そう、そこにちょこんと腰かけていたのは、四性天ほむらだった。そしてほむらは、突然現れた愛しい人を前に固まってしまう。

「あ・・・えっと・・・こ、こんにゃちは、お姉しゃま。」

 上手く舌が回らない。晒したくもない醜態を晒してしまったほむら。顔が真っ赤だ。

「こんにちは。ここ座ってもいいかな。」

 別に聞かずともいいと思うのだが、律儀なマユリ。もちろんほむらが断るなんてことは、天地がひっくり返ってもない。

「どうぞ!・・・ん?そちらの子は?」

 ほむらはナノハに気が付いた。とてつもなく可愛らしい女の子。何も知らないほむらはもしかしてマユリの彼女?と疑ってしまう。

「ほむらちゃん、会うの初めてだよね。この子はボクの妹だよ。仲良くしてあげてね。」

「ナノハです。姉がお世話になっております。」

 丁寧に、父兄の様な挨拶をするナノハ。

「ほむらです。こちらこそお世話になってます。」

 釣られて堅苦しくなってしまったほむら。


 ・・・この子が噂の妹ちゃん。


 うう・・・悔しいくらいかわいいな。


 さすがマユリお姉さまの妹。


 着席する二人の、特にナノハの顔をじっと見つめるほむら。一度はライバル視していた存在。気になるのは仕方の無いこと。

 その視線が気になったナノハ。

「あの・・・何か?」

 と、首を傾げながら聞いてみた。

「あっ、ごめんなさい。あんまり可愛いものだから・・・魅入っちゃった。」

 正直にナノハの可愛さを認め、目を奪われたことを伝えるほむら。

「あ、ありがとうございます。でも・・・ほむらさんの方がずっと可愛いと思いますけど・・・あっ、すみません。年上の人にかわいいだなんて・・・」

 慌ててほむらから視線を外すナノハ。何故なら、ほむらの顔がいやにキラキラし出したからだ。


 何かまずいこと言ったかな・・・


「ナノハちゃんから見て、ほむほむ・・・かわいいの?」


 ほむほむ?


 初めて聞くほむらの一人称。誰もが最初は頭に?をつける。

 

 しかし、今はそれどころではない。ここは何と言うのが正解なのだろうか。同じ歳や年下相手ならそのまま『かわいい』でもいいと思うのだが、ほむらは年上だ。それならキレイとか美しいといった言葉の方がいいような気がする。

 いや、でも・・・

 ナノハは決めた。やはりこれしかない。

「かわいい・・・ですよ。」

 恐る恐るといった様子で言ってみる。ここは正直が一番。そして、これが正解だとすぐにわかった。

「ええ~♪そっかぁ。そうなんだねぇ♪エヘヘッ、嬉しいな♪」

 満面の笑顔を見せるほむら。こんなかわいい子からかわいいと言われたのなら、それはもうお墨付きをもらったといっても過言ではないだろう。特にマユリの妹からなら尚更だ。

 

 満足していただいたようで何より・・・


 ナノハは、もう既に読書に没頭している姉に習い、自分も絵本を読み始める。

 その美しい姉妹を見ながらニヤニヤしているほむら。図書館に来たというのに、もう本を読んでいる場合ではない。持ってきた本は机の上に置き、ただただ二人を眺め続ける。そしてあることに気が付いた。ナノハが見ている本だ。まだ幼さが残っているとはいえ、小学校高学年位の子が幼児が見るような絵本を見ているのだ。


 もしかして・・・ナノハちゃんの可愛さの秘訣って・・・


 ほむらは急いで本を取りに行く。もう、秒でだ。そして持ってきた本は・・・


 『タヌキのピョン吉 LAへいく』


 絵本だ。

 奇抜なタイトルだが、間違いなく絵本だ。疑わないでもらいたい。


 ・・・何故ほむらがこれを選んだのか。


 それはナノハも、聞いたことの無いようなタイトルの絵本を見ているからだ。

 きっとこれが、更にかわいくなるためのヒントだと思ったほむら。

 まあ甚だ勘違いなのだが・・・

 ナノハとしてはここにある殆どの絵本を読んでしまった為、新しい本を選んだだけなのだ。


 ほむらはこの後も、ナノハの一挙手一投足を見逃さず、観察し続けるのであった。


 ナノハとしては、いい迷惑だったということは言うまでもない。

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