第54話 誕生会始まり始まり~

 日曜日、朝9時。ミカの家。


 本日の主役、ミカとハルカは着替えをしていた。

「何か・・・恥ずかしいね。」

 お姫様のようなフリフリのドレスに身を包んだハルカは言う。聞かれたミカも、ハルカと同様の格好をしていた。

「恥ずかしいのは最初だけです。すぐに慣れますよ。」

 照れる様子もなく言うミカ。今の二人の格好は、まるで幼稚園のお遊戯会の様子だ。まあ違うと言えば、豪華な装飾とその価格だろう。少なく見積もっても、一人辺り数百万は下らない。

「・・・そういうもんかな。」

 何だかとても信じられないが・・・しかしハルカだってイッパシの女子。女の子としてこういうドレスを着てみたいという願望はあった。

「さあ行きましょう。みんな待ってますよ!」

 ミカに手を引かれ、ハルカは馴れない服によろけながらもステージの上に姿を現す。


 パチパチパチパチパチパチ


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 体育館ほどはある建屋の中。たくさんの人達の拍手がホールに響き渡る。

「お誕生日おめでとうー!」

「キャーかわいいー!」

 聞こえてくるのは、多くのお祝いの言葉や誉め言葉。そのほとんどはミカの同級生達によるものだが、ハルカも面識がある子達が大勢いた。

 流石に照れてしまうハルカ。


 うっわぁ・・・はっずかしい~・・・


 こんなフリフリのドレスを着ている自分が、周りからはどう見られているのか不安なのだ。

 それに引き換えミカは・・・

「みんな~。ありがと~!」

 両手を振り歓声に応えていた。全然余裕だ。今までも経験しているのだろう。完全に慣れているのがわかる。

 ステージの中央目指し歩く二人。そして歩きながら、ミカの目は愛しい人を探していた。


 いた!


 すぐにマユリを見つけるミカ。他とは明らかに違うオーラ。そして美しさ。


 うひゃー!かっわいいー!


 今日のマユリの格好、トップはネイビーのタンクトップの上にシアーシャツ、ボトムは昨日ナノハが選んでくれたスカートを履いている。そして足元は、踵の高いパンプスだ。いつものマユリとは明らかに違う、動きにくい格好。しかし女の子らしい格好だった。

 マユリは笑顔で二人に拍手を送っている。


 ああ、今すぐ抱きつきたい・・・


 しかし今は我慢しなくてはいけない。みんなからお祝いしてもらっているのだ。平等に笑顔を振り撒かなければ・・・

 自分の誕生日だというのに、いつもより気を使うミカ。

 二人はステージに設置されている女王様が座るような豪華な椅子に腰を落とした。


 さあ、何が始まるのだろう・・・


「それではこれより、ミカお嬢様、ハルカ様のお誕生日会を開始致します。」

 MCを務めるサクラの挨拶で、会場はワッと一際盛り上がった。

「始めに、主役のお二人から一言づつもらいたいと思います。まずはミカお嬢様からどうぞ。」

「はい!」

 元気よく立ち上がり返事すると、サクラからマイクを受け取るミカ。

 

 えっ?えっ?何?聞いてないよぉ・・・


 ハルカは慌てる。それはそうだろう。こんな大勢の前で、何を話していいかわからないのだ。

 しかしもう振られてしまっては仕方がない。ここはミカの挨拶を参考にしよう。

「やっほー。みんなー、今日はありがとう!とっても嬉しいよー!色々な催し物があるみたいだから最後まで楽しんでいってねー!」

 彼女らしい、元気な挨拶だった。盛大な拍手がミカに送られる。

 しかし・・・


 全然参考にならない・・・


 ハルカには無理だ。あんな感じは。

 ではどうする?

「ミカお嬢様、ありがとうございました。では、続きましてハルカ様お願い致します。」

 ハルカはミカからマイクを受け取ると、ゆっくり立ち上がった。

 そして目を閉じ・・・


 やばっ!まさかハルカ・・・


 何かに気付いたマユリ。

「みんな!見ちゃダメ!」

 急いで周りに声をかけたのだが・・・遅かった。

 ハルカは一気に目を見開く。

 

 ドクンッ


 周囲の人達が倒れていくのがわかる。

 ハルカの仕業だ。

 ハルカは緊張しすぎて『威嚇』してしまったのだ。しかも広域威嚇。正面に立つものは見境なくしてしまうのだ。

 耐性のあるものは何とか持ちこたえているが、ほとんどの人間はその場に崩れ落ちてしまう。

 マユリは何ともない。きちんとしたからだ。アリス、ほむらは片膝は付くものの、何とか堪えられたようだ。

「さ、さすがですわ。ハルカ様。」

「久しぶりに・・・効いたぁ。」

 喋れるくらいの余裕はある。きっと以前にも喰らったことがあるからだろう。他の人間よりも、多少だが慣れていたのだ。

「ふぅ、訓練しておいてよかったぜ。でも、ギリギリだ・・・」

 ヒメノは立っていられた。どうやら耐えきったらしい。だがマユリのように、完璧に防御出来たわけではなかった。肩で息を切らし、満身創痍の様相だ。

 近くにいたMCのサクラは、一瞬意識が飛んだが何とか踏みとどまることができていた。

 ミカはハルカの少し後ろに居たため威嚇を浴びることはなかったのだが、その圧倒的な力を目の当たりにし、身震いをしていた。


 やっぱりこの人、かなりヤバイ・・・


 改めてハルカを怒らせないようにしようと心に誓うミカだった。

 そんなハルカ。この状況を作ってしまった張本人として、色々と言葉を選ぶが・・・

「あっ、え~と、みんなありがとう・・・そんで・・・ごめんなさい。」

 感謝と謝罪を同時に言うことしかできなかった。

 この後誕生日会は、倒れた人達を介抱するため一時間程休憩を入れざるを得なかったとさ・・・

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