第28話 やっぱりやめます

 男達は動けない。それほどまでにマユリの殺気が濃いのだ。

「マユリ、あたしも頭にきてるから手伝うよ。」

 ハルカも参戦するようだ。これはかなり珍しいことだった。

「わかった。じゃあハルカは1人お願い。」

 マユリは安心してハルカに任せる。余程ハルカを信頼しているのだろう。いや、むしろハルカの相手が少し可哀想にも思えてしまっている。

 1人任せられたハルカは相手を吟味する。そして決めた。恐らく、この中で一番の手練れだろう男だ。

 つかつかとその男に近づいていくハルカ。その姿は燐としていて美しく、隙がない。

「おい!そこのあんた!!」

 大声で威嚇するハルカ。


 ビックゥ!


 ハルカのあまりの『圧』に、男は萎縮してしまった。肩を下げ、足元はガタガタと震えている。

「あんたねぇ。見たところこの子よりもだいぶ年上じゃない。いくつなの?」

「21です・・・」

「はぁ?大分年上だよねぇ。で?この子に何するつもりだったの?」

「ほむほむ、いや、ほむらさんを殺して自分も死のうかと・・・」

「ばっかじゃないの?」

 怒鳴るハルカ。

「あんたさ、それってただの自己満足だよね。この子が同意したの?しなかったよね。勿論させないけど。なのに自分の欲望の為だけで、この子を殺害しようとしてたんでしょ?こんなか弱い女の子を・・・ほんと、ばっかじゃないの!ほら、正座だよ正座!」

 呆れたように怒るハルカ。男を正座させ、更に続ける。

「あんたはこの子の親や友達のことまで考えたことあるの?この子に何かあったらどんな気持ちになると思ってるのよ!そこまで責任とれるっていうの?ねぇ!ちゃんと聞いてる?」

 腰に手を当て、見下しながらハルカは男を叱責した。

「はい・・・すみませんでした。」

 男はもう戦意を確実に喪失していた。涙目でハルカの話をただただ聞いている。そんな光景を遠目から見ているマユリ。


 かわいそうに・・・


 ハルカを怒らせるとこうなる。マユリでさえ、ハルカを怒らせないように気を付けている程だ。

 その間にもマユリは二人の男を倒していた。後二人。そこにほむらのボディーガードがマユリのすぐ側に姿を現す。黒のスーツを身に纏った、マユリよりもショートヘアのスレンダー美女だ。

「助かりました。この五人はいずれも手練れ。私1人ではほむらお嬢様を無事にこの場から無傷で逃がせられたかどうか・・・後は私が請け負います。」

 構えをとるボディーガード。しかし・・・

「ありがとうございます。でも大丈夫です。すぐ済みますから。」

 そう言うや否や、マユリは1人の男に一瞬で接近し、右拳で顔面を撃ち抜く・・・寸前で止めた。風圧だけが男の顔にかかる。首から上を失ったような錯覚に陥った男は、恐怖のあまり膝から崩れ落ちてしまった。

 残り1人に目を向けると、ほむらに向かって走り出していた。だが焦らないマユリ。左掌を前に出し、右拳を腰の辺りで構える。そして・・・


 ドン!


 まるで居合いのように一瞬で右拳を前に突き出し素早く元の位置に戻す。

「ぐはあ!?」

 男は背中に一撃をくらい、そのまま地面に突っ伏す。『遠当て』だ。拳で衝撃波を生み出し、相手を吹き飛ばしたのだ。もはや戦闘においては何でもありのマユリ。

 一先ず四人の男達は倒した。マユリはチラリとハルカの方を見る。未だ説教が続いているようだ。男は耐えきれなくなり、うつ伏せで倒れているというのに・・・


 ・・・・・・

 

「さあ、行こう。ハルカ、ほむらちゃん。」

 二人を促し、帰ろうとするマユリ。ボディーガードはまた身を隠してしまった。

「待ってくれよ!ほむらちゃん、何で俺達が嫌になったんだ?ちゃんと聞かせてくれなきゃ納得できないよ!」

 1人の男が吠えた。マユリの前で抵抗はあったが、正直に話し始めるほむら。

「あたし、好きな人がいるの。それでね、きっとその人はこのキャラが好きじゃないと思うんだ。だから、これからはかっこいい女になろうと思ったの。かっこいい女が、お兄ちゃん達にいつまでも甘えてちゃダメでしょ。だから・・・」

 ほむらにとって、苦渋の決断でもあったのだ。この男達のことはさておき、かわいいもの大好きな自分を封印しなくてはいけないからだ。

「俺たちに応援させてくれよ!」

「えっ?」

 思いもよらないことを言ってきた男。

「それゃあ俺達、ほむほむをやらしい目で見てるよ。でも、本当の妹のようにも思ってる。」

 いや、本当の妹のように思ってるのであれば、やらしい目で見ちゃダメでしょう。しかしどうだろう。ほむらは何故か真面目に聞いている。

「妹の幸せを願わない兄貴なんていないだろ!だから、その好きな人と付き合えるように応援するよ。いや、させてくれ!きっと今日ここにこれなかった奴等も同じ気持ちだから。」

「そうだ!俺達はいつだつてほむほむの味方だよ!」

「お兄ちゃん達・・・」

 感動するほむら。ここまで思われているなんて・・・普段はキモいお兄ちゃん達だけど。

 しかし、そうはいってもこれはマユリに好かれる為に始めたこと。ここで挫けては意味がない。

 ほむらは、何か言ってもらいたそうにマユリを見つめる。それに気付いたマユリは、口を開いた。

「よくわからないけど、無理してキャラを変えることはないんじゃないかな。ほむらちゃん可愛いのが合ってるし。」

「でも・・・」

 そう言われて嬉しいのだが、ただ可愛いだけでは駄目なのだとほむらは思っていた。

「ボクにもかわいいは妹はいるよ。けど、ほむらちゃんは実の妹とは違った可愛さがあっていいと思うんだけどな。」

 ほむらの顔が輝く。変にマユリ妹をライバル視していたのだが、その蟠りが解けた気がしたのだ。


 あたし・・・いや、ほむほむはこのままでいいんだ・・・


 自信を取り戻すほむら。

「お兄ちゃん達、ほむほむ決めたよ。ほむほむ、妹を続ける!みんなの、いや、世界の妹を目指すよ!だから、応援宜しくね。」

 ほむらは天を指差し、高らかに宣言する。


 ・・・世界の妹って何?


「いいぞ~!」

「応援するする~。」

「頑張れ~!」

 お兄ちゃん達それぞれが、口々にほむらを持ち上げる。

 やれやれ、一件落着か・・・と思ったのだが、どうしてもマユリには言わなければならないことがあった。

「それはともかく!あなた達!もうこの子に乱暴なことしようとしちゃ駄目だからね!わかった?」

 語気を強めて言う。これだけはわからせないと・・・

『はい!わかりましたお姉さま!』

 声を揃えて了解する五人の男達。


 !!・・・お姉さま!?


 マユリファン、5人追加です。

 

 何だかんだで空は日が陰ってきていた為、ほむらを家まで送ったマユリとハルカ。その後二人きりになったのだが、マユリはハルカの機嫌が戻ったかどうかわからず、ビクビクしながら帰ったとさ・・・

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