第25話 急接近?

 月曜日の放課後。


 マユリは昇降口で靴を履き替え、帰ろうとしていた。今日は図書室に寄らず、家で勉強する予定だ。しかし、そこに・・・

「せ~んぱい。一緒に帰りましょ🖤」

 ミカが待ち伏せをしていた。別に一緒に帰るくらいなら問題ないと思ったマユリは、快くOKする。

「やった!じゃあ腕組んでいいですか?」

「だ~め。」

 友達のようにじゃれ会う二人。確実に以前よりも仲良くなっていた。


 二人並んで、ビルの立ち並ぶオレンジ色の街道を歩いていると、前方からあまり会いたくない輩達が歩いてくる。


 あれは・・・


 この前、マユリのファンになってしまった三人組の男達だ。まだあちらは気付いていない。もし気付かれてしまっては、面倒なことになりそうだ。

「ミカちゃんこっちへ。」

 マユリはミカの手を引き、狭い路地裏に身を隠す。


 えっ、あたし、先輩に人気の無いところに連れ込まれたの?ええ、どうしよう🖤


 マユリは表通りを注意深く観察している。男達が通り過ぎるのを待っているのだ。しかし、そちらに集中しているせいか、ミカを警戒するのを怠っていた。咄嗟に身を隠した為、抱きついている形になり、ミカの手はマユリの胸に触れている。


 ああああ🖤先輩のぉぉぉ🖤 

 

 マユリは大通りに集中しているため気付いていない。


 少しだけ・・・少しだけなら・・・


 ミカは慎重に手を動かしてみる。


 ピクッ


 あはぁ🖤柔らかぁい🖤


 至福の顔面を醸し出すミカ。更にもっと堪能したくなり、いけないとわかっていても揉んでしまう。

 

 ムニュッ🖤


 !?・・・・・・


 ふぁぁぁ🖤気持ちいい~~🖤


 ピクピクと、少しは反応を示すマユリだが、それでも動かず黙って大通りを見ている。それをいいことにミカは、今度はマユリのおしりに手を伸ばした。だが、さすがにそこまで許すつもりはない。

「はいストーップ!!」

 左手でおしりを触ろうとするミカの手を払うマユリ。

「まったく。やめてよ!何してるの?何しようとしたの?」

 プンプン怒りながら言うマユリ。

「えっ、胸を揉みました。これから臀部を撫で回すところです。」

 キョトンとしながらも、真面目に答えるミカ。何で怒られているかわからないようだ。

「『撫で回すところです』じゃないでしょ!こんなの痴漢とやってること一緒だよ!」

 きちんと注意するマユリだが、未だにミカは訳がわからないといった顔をしていた。仕方がない・・・

「嫌いになっちゃうよ?」

 溜め息をつきながら、ボソッと言うマユリ。ミカにとって、これが一番堪えるだろうことをマユリは知っていた。

「あっ、ごめんなさい!許して下さい!てっきり、そういうことの為にここに連れ込まれたと思って・・・」

 慌てて謝るミカ。そしてこの言葉で、ミカが完全に誤解をしていたことにマユリはやっと気付いた。今度はマユリが慌てて誤解を解こうとする。

「違うよ。ここに隠れたのは・・・」

「何だ?こんなところでイチャついてんのか?」

 あちゃ~

 後ろから男の野太い声が聞こえた。あの3人だ。思わず大声を出してしまった為、気付かれてしまったのだ。

 ゆっくり振り返るマユリ。

「あ、貴女は・・・姉御?」

 まさかこんなところで会うとは思わず、驚く三人組。マユリはアワアワするばかりで何も言えない。

「もしかして姉御・・・」

 男達は、マユリに張り付いている可憐な少女を見ている。何か変な方向に考えていそうだ。

「俺らと同じ種類の人間なんですね!」

 やはり完全に誤解してしまう男達。


 ひゃほーう!


 そして何故か大喜びだ。


「さすが姉御!こんな人気のない歩道で少女とイチャイチャなんて。大胆ですね!」

 嬉々としながらマユリを褒め称える三人組。


 いや、違っ、ここに入ったのは・・・元はと言えばあんた達をやり過ごす為だから!


 しかし、そんなこと言っても聞き入れてくれるようなテンションでない男達。マユリはチラッとミカを見る。一緒に誤解を解いてもらおうと思ったからだ。しかしミカは頬を赤らめ、潤んだ瞳をマユリに向けていた。どうやらこちらも話を聞いてもらえそうにない。

「違うから・・・違うから~!」

 仕方なくマユリは、強引にミカの手を引き、男達を押し退け、その場から逃走する。

「あっ、姉御待ってくだせぇ。」

 待てと言われて待つわけがない。どうせ散々節操のない人間だと言われるに決まっている。それに・・・


 何でボク、ミカちゃんの顔見てドキドキしてるんだ?


 自分の中の何かが変わりそうで怖かったのだ。


 無我夢中で走った為、あっという間にミカの家まで辿り着いてしまった。

「ハァハァ、じゃあねミカちゃん。また明日。」

 そう言い残し、マユリは早々に立ち去ろうとする。

「待ってください。先輩・・・」

 そう言うとミカは目を閉じ、唇をマユリに差し向けた。


 えっ、ど、どういうこと?まさか・・・キ、キスしろってこと!?


 マユリのドキドキは治まってしまった。むしろ血の気が引いてしまったのだ。手を伸ばし、ミカの鼻をつまむマユリ。

「きゃあ!?」

 ミカは、思わぬ攻撃に悲鳴を上げた。

「何してるの。ボクたち恋人同士じゃないんだよ。」

 未だに自分に想いを寄せていることを改めて実感したマユリ。そして、うつ向き寂しそうにしているミカを可哀想に思ってしまう。


 仕方ない・・・


「ミカちゃん、もう一回目を閉じて。」

 ミカは何でだかは聞かず、言われるままマユリに従う。


 チュッ


 おでこに感じる柔らかい感触。そう、マユリはミカの額に唇をつけたのだ。

 目をゆっくり開き、マユリを見つめるミカ。その顔は、信じられないといった面持ちだった。

「これで満足するかわからないけど、今のボクの精一杯の気持ちだよ。これからもかわいい後輩でいてね。」

 照れ臭そうに笑いながら言うマユリには、後光が射している。夕日を背中で受けている為だろう。

 その女神様のような愛しい人が、自分の顔の一部に唇を触れてくれたのだ。満足しない訳がない。

「それじゃ、ボク帰るね。」

 ミカに背中を向け、帰っていくマユリ。ミカはただただその背中が見えなくなるまで見ていることしか出来なかった。まるで魂を奪われたようだ。

 もうミカにはマユリしか見えなくなってしまった。

「先輩・・・あたし、絶対に先輩のお嫁さんになりますから・・・」

 確固たる決意を胸に宿すミカであった。

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