59話 朝がくるのが怖い。


 59話 朝がくるのが怖い。


(回数を重ねるごとに、敵の火力が増していく……動きのバリエーションとかは、微妙なパワーアップだが、火力と圧力に関しては、異常な速度で上がっていく……まだ、ワンミスでは死なないが……これ、おそらく、あと数十回ほど繰り返せば、ワンパンで死ぬレベルになるぞ……)


 そうなった時のことを想像して、センは吐きそうになった。

 一回や二回という少数、強めの地獄を経験すれば済む、というのではなく、

 何十回、何百回、

 あるいは、何千回という頭おかしい単位で、

 この、無限の地獄に立ち向かわなければいけない。


(いやいや……俺の宿命、マジでどうなってんの? 誰が、これ、仕組んでんの? もし、誰かが仕組んでいるんだとしたら、そいつ、俺のこと、嫌いすぎん? どうした? 俺に親でも殺されたか?)


 こんな地獄を繰り返しているものだから、

 当然、センは、どんどん強くなっていく。


 ――けど、強くなれば強くなるほど、敵の神話生物も強くなる。


「しんどい、しんどい、しんどい!!」


 ギリギリの死闘を競り勝って、競り勝って、競り勝って、

 強くなって、強くなって、強くって、

 その分だけ、敵もどんどん、

 強くなって、強くなって、強くなって、


 そして、またループして、

 ギリギリの死闘を競り勝って、競り勝って、競り勝って、



「いや……これ……しんどいって……マジで……え、ちょっと待って……え、これ、いつまで続くの……」



 銀の鍵は、毎回、毎回、ぽんぽん見つかった。

 現時点で、ストックは200個近くある。


 別に、その全部を使い切らなければいけない、

 というルールなんかは存在しない。


 しかし、ヨグシャドーの話によると、


「クトゥルフ・オメガバスティオンは、私ほどではないが、しかし、間違いなく銀メダリストの実力者。その『200個の銀の鍵』を全て使い切ったとしても、勝てるとは限らない。というか、正直な話をすれば、200個程度では話にならない」


 ゴールが見えない無間地獄。

 ヨグシャドーの言葉を、ただのハッタリと捉えられれば楽だったのだが、

 しかし、なぜだか、センは、『ハッタリではない』と肌で感じ取った。


 クトゥルフ・オメガバスティオンは、ラスボスにふさわしい実力者である。

 と、なぜか、魂魄が理解してしまっていた。


 だから辛い。

 ゴールの見えない鉄人レースを、

 延々に続けなければいけない地獄。


 新卒社会人のサラリーマンが、

 初日に実感する地獄を、

 永遠に受け続けるという苛烈な運命。



「朝がくるのが……怖い……」



 死んでしまいたい、

 と、何度も思った。


 その方がよっぽど楽だろう、と頭では理解できていたから。

 センは賢くないが、バカではない。


 だから、楽になれる方法ぐらいは理解できている。


 ――けど、


「なんで……」


 バカではないはずなのに。

 ちょっとは賢いはずなのに。


 なのに、センは、


「なんで……まだ……俺は……がんばれるんだ……」


 涙を流しながら、

 センは、銀の鍵を使い続ける。


 頭がおかしくなりそう。

 というか、とっくに、だいぶおかしくなっている。


 なのに、センは、それでも、



「――俺は……まだ……がんばれる……っ」



 宣言し続ける。

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