57話 ズルい男。
57話 ズルい男。
エレベーターで、一番下まで降りたセンは、
そのまま、いっさい、寄り道することなく、
リムジンに戻って、
「はい、じゃあ、学校に帰ろう」
極めて、たんたんと、帰宅をうながす。
「このとんぼ返り……遠足として成立しとるんかなぁ」
と、ボソっとつぶやいたトコに、
センは、
「成立しているわけねぇだろう。俺が時空ヶ丘の理事だったら留年させている。まあ、俺が理事だったら、主体性遠足などという、こんなワケの分からんコトをやらせたりしないが」
と、根本からの否定を決め込みつつ、
センは、帰ってからのアイテム探索のための休憩に入る。
ちなみに、瞬間移動で帰ったら、その瞬間に幻爆が舞うので、
こうして、おとなしく車に揺られている。
散々、多角的な流れを試してきた結果の今。
だから、愚かな間違いの一手は打たない。
粛々と、正しいルートをなぞるセン。
ただ、これが『本当に正しいルート』なのか、今のセンには分からない。
★
夜まで、ひたすら、銀の鍵を探索し、
夜になったら、携帯ドラゴンのサーチで銀の鍵以外のアイテムを探す。
そんなのんびりとした時間も、リミットが近づいてきた。
「さて……それじゃあ、そろそろ飛ぶか……」
『全員の首が爆散したのを確認してから飛ぶ趣味』は持ち合わせていないので、
幻爆が舞う直前でタイムリープを決め込もうとするセン。
そんなセンに、
紅院たちは、色々な言葉をなげかけた。
その大半は、感謝の言葉。
あふれ出る想いをセンに伝える。
その全てを受け止めたセンは、
最後に、
「……ありがとう」
素直なだけの言葉を残した。
『返報性の原理』というわけでも、
『空気を読んで場に合わせた』というわけでもない。
ただ、『感じたこと』をそのまま口にした。
それだけの話。
そのあまりにも素直すぎる反応に、
ヒロインズは、全員、ハっとする。
感情が膨れ上がった。
と同時に、なくしたはずの記憶が頭の中で膨らんでくる。
おおくの想い。
救われた記憶。
与えられた愛。
全部が膨れ上がって、爆発しそうになって、
けど、
もう、タイムリミットだから、
「――お前らを失いたくない。だから、俺は……まだ、頑張れる」
少しだけ素直に、そう言って、
センは、銀の鍵を天に掲げた。
過去へと飛び立とうとするセンの目に、
涙を流している彼女たちの姿が映った。
「ズルい」
と、誰かが、そんなことを言った。
誰が言ったかは分からなかった。
もしかしたら、全員が言っていたのかもしれない。
★
――目が覚めると、
代り映えのしない『初日の朝』だった。
何の変哲もない、いつもの始まり。
センは、ベッドから起き上がって、
すべてのアイテムが問題なく引き継げているか確認してから、
「……ロイガーやウムルと戦うのもしんどいが……一番キツいのは、やっぱり、最終日かなぁ……」
などと、特に意味のない本音を口にしてから、
「さて……と」
のっそりと、仕事に取り掛かる。
まずは、黒木に電話。
「お前が小三の時に書いていた自作小説の主人公の名前は……ソンキー・ウルギ・アース……間違いないな?」
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