49話 次の私はもっと強い。
49話 次の私はもっと強い。
他の神話生物との闘いでも、
当然『痛み』は感じてきたわけだが、
しかし、なぜだか、ウムルとの闘いでは、
いつも以上の『苦痛』を感じた。
妙な吐き気を感じる。
重たいのだ。
ジットリと、ベッタリと。
苦痛と絶望が、グンと、肩にのしかかってくる。
『しんどさ』が常識外の質量を持って、
センの臓器に過度な負担を強いてくる。
「貴様の罪を数えろ、センエース。その重荷は、貴様が、いつも、他者に与えているものだ。貴様の敵は、いつも、その地獄を味わってから死んでいる。自身がいかに罪深い存在か、心に刻み込め」
「……そんなもんを刻み込んだところで、俺には一円の得もねぇ。つぅか、たいがいの敵は、俺を殺そうとしてきたゲス共だ。基本、自衛してきただけの俺に罪なんざねぇ。法律を勉強してから出直せ、カスが」
言葉で切り返しつつ、
拳でも切り返していく。
ノーガードの殴り合いは続いている。
別にガードしたっていいのだろうけれど、
なぜだか、両者とも、
『引いた方が負け』のような気がしてしまい、
引くに引けなくなって、
時間が経つごとに、ボロボロになっていく。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
満身創痍の両者。
どちらもボロ雑巾のようになって、
けれど、まだ、両者とも、相手を殴る手を止めない。
頭のおかしい殴り合いは、
「せ……閃拳っ」
「うぼぇっ……っ」
最終的に、
センの方に軍配が上がることで幕を閉じた。
倒れこんだウムルに対し、
センは、必死に呼吸を整えてから、
「……ナメんなよ」
最後に、そう言い捨てる。
その言葉に対し、倒れこんでいるウムルは、
「今回は負けるが……『次周の私』は……もっと……重たいぞ……」
と、不穏な言葉を残してから、
粒子状になって、
センの奥へと注がれていった。
残されたセンは、天を仰いで、
「……ああ、そうだった……こっから、何回も、あいつの相手をしないといけないんだった……」
殴り合いに夢中になっていたので忘れていた。
これから、何度もタイムリープを経て、
さっきの鬱陶しいウムルと殴り合わないといけないということ。
「……次は、さらにウザくなっているのか……で、次の次は、もっと……あぁ……しんどいぃいい……」
泣きそうな声で、未来を憂(うれ)うセン。
どれだけ泣き叫ぼうと、どれだけ弱音を吐こうと、完全に無意味。
誰も、センを助けてはくれない。
いつだって、センエースは、自分で道を切り開くしかない。
「はぁあああ……」
深いため息を吐いてから、
センは、黒木に連絡を入れた。
これだけ満身創痍になりながら、
しかし、それでも、アイテム探索を続けようとする。
それが、センエースの生きる道。
あまりにも険しい修羅の道。
「……ヒーローなんて……なるもんじゃねぇよなぁ……」
心の底からの本音をこぼす。
今だけの感傷ではなく、
ほとんど、生まれてからずっと思っている本音。
――けれど、それでも、
センは、ヒーローを騙り続ける。
そういう生き方しか知らないから?
違う。
そういう生き方を選択したから。
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