48話 イライラ。


 48話 イライラ。



「――ヒーロー見参――」



 その宣言をした直後、

 ウムルのオーラと魔力の質に変化が生じた。


 それが具体的に『どういう変化』なのか、

 言葉で説明するのは非常に難しい。


 『質量が増した』ようにも感じるし、

 『質量の方は増減していない』ようにも感じる。


 とても不思議な感覚だった。

 奇妙な暖かさを感じた。


 ――そんな、ウムルの変化に対し、

 センは、歯噛みをしつつ、


「それも……どっかで聞いたことがあるセリフだな……」


 決め台詞を盗用されて、

 普通にご立腹のセン。


「その宣言は、『言えばいい』ってもんじゃねぇ……相応の覚悟を伴って、はじめて、価値らしきものが、ほんのりと見えてくる……けど、それだって、結局のところは錯覚にすぎねぇっていう、そういうフワフワした真正の戯言だ」


 沸いてきた怒りを形に変えようとするセン。

 なぜ、こんなにも腹が立つのか。

 理由は単純で、

 『下手なモノマネ』をされると、誰でも腹が立つ。


 『モノマネは愛がないと出来ない』なんて言い訳で逃げようとしても無駄だ。

 無駄を削ぎ落した『完璧なモノマネ』なら、その言い訳も通じる可能性があるが、『雑で下手なモノマネ』は『煽り』以外の何物でもない。


「……なにが、センエースエンジンだ。まさか、『そいつがある』から、ヒーローを騙れるとでも? この世をナメんなよ、ボケが」


 グツグツと沸き立つ。

 センの深部が熱く燃えている。

 純正の怒り。

 ただのイライラ。

 尊さとか、愛とか、慈悲とか、

 そういうの全部をとっぱらった後に残る、

 ただただ単純な『ムカつく』という拙い感情。


「俺のことを見下すのは自由だが、俺の覚悟だけは、ナメない方が身のためだ。俺の孤高は、よくわからんエンジン一個で模倣できるほど、程度の低いオモチャじゃねぇ」


 純正のイライラを原動力として、

 センは、ウムルに特攻を決め込んだ。


 センエースエンジンという言葉に、

 センは、なぜだか、妙にイラついた。


 自分の覚悟を『小バカにされた』という気になったから。


 だから、というわけでも、

 結局のところはないのだけれど、

 その沸き上がる全部を拳に込めて、

 センは、


「閃拳」


 ウムルに、相当な火力を押し付ける。


「ぐぅうっ!」


 モロに、閃拳を叩き込まれたウムルは、顔をゆがませたが、


「凄まじい強さだな、センエース。異常なほどの意志の強さ。破格の信念。しかし、今の私ならば、同じ領域に立てる。あくまでも可能性の話。しかし、私にだって歴史はある。エンジン一つだけで貴様の前に立とうというほど、私の底は浅くない! 私を! ウムル=ラトをナメるなよ、センエース!!」


 切り返しの拳に込められていた歴史には、

 センを吐血させるだけの重みが、確かにあった。


 速くて、硬くて、強い。

 そんな、鋼の信念を確かに感じた。


「…ぐふ……クソがぁ……痛ぇな、ちくしょう……くそぼけぇ……」


 他の神話生物との闘いでも、

 当然『痛み』は感じてきたわけだが、

 しかし、なぜだか、ウムルとの闘いでは、

 いつも以上の『苦痛』を感じた。

 妙な吐き気を感じる。

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