47話 私は、私より強い程度のザコに負けない。


 47話 私は、私より強い程度のザコに負けない。


(……あんまり手ごたえがねぇ……直前で軸をズラしやがった……)


 殴ったセンは、心の中で、ボソっとそうつぶやいた。


 吹っ飛んだウムルは、

 空中でキキっと急ブレーキを入れると、

 殴られた頬を撫でながら、


「……いい一撃だ。センエース。貴様は強い」


 血を吐きながら、ウムルは武を構えて、


「しかし、私より強いという程度で図に乗るな。私は私より強い程度のザコには負けない」


「……どっかで聞いたことがあるセリフだな」


 などと言いつつ、センは武を構えて、


「――お前より強いなら、俺はザコじゃねぇだろ。なに、ふざけたこと言ってんだ、ボケが。多角的に錯綜(さくそう)しやがって。寝言は寝て言え」


 などとブーメラン発言を決め込んでから、

 センは、ウムルに対して特攻を決めた。


 そんなセンの突撃に対し、

 ウムルは、とびっきりの眼力で世界を睨みつけ、


「――見える。私にも、貴様の動きが見えるっ」


 などと言いつつ、センの懐にもぐりこんで、

 綺麗なカウンターを決め込んできた。


「ぶへぇ!」


 顎に豪快なアッパーをもらったセンは、盛大に血を吐きつつも、


「く、くそがぁ!」


 反撃の拳で、ウムルの腹部に風穴をブチ開けていく。


 別に『打ち合わせした』というワケではないのだが、

 そこから、互いに、ノーガードの殴り合いを始める両者。


 『回避は無粋』と心が叫ぶ。

 『意味不明な論理』に世界が発狂。


 理解できない領域に立つ二人の化け物。

 互いに、握りしめた拳を、必死になって、相手にたたきつけ続ける。


 ボッコボコになった両者は、

 それでも!

 おたがいを!

 殴る手を!

 とめない!



「ぐへぇええ!」



 最初にクリティカルをもらってよろけたのはセンの方だった。

 鼻血で顔面が真っ赤になって、歯が何本も折れて、非常にブサイクな面構えになっている。


「く、くそがぁ……」


 右腕で鼻血を雑に拭き取りつつ、

 回復魔法で、損傷部位を治癒しつつ、

 センは、ウムルを睨みつけて、


「なんだ、てめぇ……ステータスの数字的には、覚醒ロイガーとトントンっぽいのに……なんか、妙に強いぞ……」


 イライラで奥歯をかみしめながら、

 ぶつぶつと、愚痴をこぼすセンに、

 ウムルは、ニィと爽やかに微笑んで、


「私に搭載されているセンエースエンジンは『最新型』の『本物』だ。パチモノではなく、本物のセンエースエンジン。使用するための限定条件が厳しすぎるため、汎用性は極めて低いが……しかし、間違いなく本物のセンエースエンジン。そのスペックは、ありえないほど破格。出力、加速、強度、粘り強さ、圧縮率、すべてが規格外」


 ウムルは、自身に搭載されている特殊なエンジンについて語りつくすと、


「だから舞える。誰よりも高く。誰にも届かない世界に、私は行ける。見せてやるよ、頂(いただき)の向こう。神ですら届かない深淵の最果て。見せてやるから、死ぬ気で見届けろ」


 スゥと、静かに息を吸った。

 目を閉じたら、暗闇に包まれた。

 静寂と孤高。

 その中心で、ウムルは、さらに深部へとダイブ。



「――ヒーロー見参――」



 その宣言をした直後、

 ウムルのオーラと魔力の質に変化が生じた。


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