32話 性格の問題で、『可能性のない奇跡』は望めない。


 32話 性格の問題で、『可能性のない奇跡』は望めない。


 センは、すぐさま、過去に逃げようとしたが、


「そう、慌てるなよ、センエース。もう少し、遊ぼうじゃないか」


 そう言いながら、クルルーは、胸の前で両手を合わせて、呪文を唱えた。


 すると、クルルーを中心として、空間魔法が広がっていく。

 外界から切り離して閉じ込めるタイプではなく、

 世界に対して『特殊な空間』をねじ込むスタイルの空間魔法。


 その特異な領域は、

 センエースのタイムリープを拒絶する。


(……っ……銀の鍵を封じられた……つぅか、このカギ、逃走用で使おうとして、うまく使えたためしがねぇな……くそったれがぁっ)


 過去に逃げられないと理解すると同時、

 全身の至る箇所から脂汗があふれ出るセンエース。


 現状の『ヤバさ』に魂が震えた。


(えぐい、えぐい、えぐい、えぐい……どうする、やばい、殺される……っ)


 あまりにも力量差が明確すぎた。

 今のセンエースがクルルーに勝てる未来は存在しない。


 『可能性』が残っている段階なら、

 センエースも、抗う気力を見せただろうが、

 しかし、


(俺が積み重ねてきた可能性は、マイノグーラとやりあった時、既に全部放出してしまった……ここから『先』を求めるのであれば、相応の時間を積む必要がある。……『これからソレをしよう』と思っていた矢先で、こんな状況に陥るとは……っ……ぐぅ……)


 センエースは『奇跡』に頼らない。

 いつだって、信じるのは、自分が積み重ねてきたものだけ。


 ソレがない状態で『先』は求められない。

 奇跡の乞食になる気はない。


 だからこそ、


(どうする、どうする、どうする……っ)


 バッチバチに焦っているセンエース。

 わずかばかりも見えない未来。

 失神しそうになる。


 そんなセンに、

 ニャルが近づいて、


「準備が足りていない状態での絶望。君にとっては、もっとも辛い地獄だろう?」


 ニタニタと笑いながら、


「センエース。君は、異常に時間をかけて準備をするタイプのイカれたド変態だ。誰にもマネできないレベルで『時間』を積み重ねて、強制的に未来を奪い取るスーパー脳筋スタイル。だけれど、いつもいつもいつも、適切な準備ができるわけじゃない。突発的でカツカツの事案に対し、さてさて、君はどこまで抗える?」


「……」


「ちなみに言っておこう。ソウルゲートは許さない。今の君に必要なものではないからね。今の君に必要なのは、時間を重ねる覚悟ではない」



「ソウルゲートって……なんだっけ? どっかで聞いたことがある気がするが……忘れたな……俺は物覚えがよくないんだ。教えてくれ」



 そんなセンの問いかけを、

 ニャルは完全シカトして、


「センエース。これだけは覚えておいてくれ。ここで、君が、インフィニットクルルー・ニャルカスタムに勝てなければ、世界は終わる」


「……」


「死ぬ気で乗り越えてみせろ。そうでなければ、未来はない」


 好き勝手に、自分の言いたいことだけを乱雑に言い捨ててから、

 ニャルは、その場から離れていった。

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