59話 ナバイアの私観。


 59話 ナバイアの私観。


「人類の希望『センエース』の映像証拠も先ほど提出させてもらったはずだが?」


「見たさ。非現実的な光景だった。ハリウッドでは、あの手の豪快な映像を日夜鋭意制作している」


「分析すれば、手が加わっていないことは明白かと思うが?」


「携帯ドラゴンという、オーパーツには、無数の隠し機能が搭載されていると聞いている。我々の解析力では到底暴けない映像をつくりだすことは、そう難しくないだろうと推測する。突如出現した謎のヒーローが、GOOやアウターゴッドを殲滅してみせた、というヨタ話よりは、まだそちらの線の方がはるかに信じられる」


「貴殿のいうことはもっともだ。気持ちはよくわかる。しかし、今回の問題は急を要する。無駄な邪推で足踏みしているヒマはない。私が、今回、みなと話し合いたい議題は、『センエースが本物か否か』などという『論じる必要皆無のクソみたいなテーマ』ではなく、『センエースという稀代の英雄と、今後、どう向き合っていくか』という人類の命題」


 マサヨシは、たんたんと、


「センエースのもっとも特筆すべき功績は、目の前の敵を倒せたことではない。そのために何をしてきたか、だ」


 そんなマサヨシの強い言葉に対し、

 ナバイアは、冷めた顔のまま、


「センエースの軌跡に関するデータも見せてもらった。確定的な人類終焉を脱するため、同じ一週間を、1000回ほど繰り返し、命を磨いてきた……事実であれば、感動的な話だ。しかし、その証拠はどこにもない。本人がそう言っているだけ。そのありえない献身が『事実である可能性』と、センエースという少年が『虚言癖持ちのサイコパスである可能性』、どちらの方が上かな」


「私は前者の方が上だと考える。彼の病的な高潔さと次元違いの強さがその証拠だ」


「それは、証拠ではなく願望だな。バカバカしい。……まあ、各々がどう考えるかは個々の自由で、他者が何を言っても変動しないことは理解しているから、これ以上、あなたの願望に対して、とやかく言うつもりはないが、私は、後者の方が『確率的には圧倒的に高い』と断言させてもらう。センエースの報告は、一から十まで、あまりにも荒唐無稽」


「――『嘘をつくなら、もっとマシな嘘をつく』と、そうは思わないかね?」


「世にバカはたくさんいる。マシなウソをつけるヤツの方が、実際のところは少ない。犯罪者の知り合いは何人かいるが、その中の一人である強姦殺人犯は、殺された少女の膣の中から、その男の精子が発見されたことについて追及された際、大真面目な顔で、『処女受胎したのだろう。キリストの時と同じだ。聖書だけを信じて、俺の言葉を信じないのは差別だ』などと言い放ったよ」


「ナバイア……キミは、センエースの言葉が、その性犯罪者と同じだと言いたいのかね?」


「本質的には同じだと考えている」


「あまりにもひどい侮辱。我が国が誇る英雄に対する非礼を、この場で正式に詫びてもらいたい」


「あまりふざけたことばかりぬかすなよ、紅院正義。私は、己の信念に従う。サイコなホラ吹き相手に謝罪などしない」


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