28話 グダグダの本音。


 28話 グダグダの本音。


「理想の未来を描いていたのはお前だけじゃない。俺にだって、望んでいる明日はあった。けど、現状は、望んでいた今日じゃねぇ。バカみたいに必死になって積み重ねた先に待っていたのは、吐くほどの虚しさが広がっているだけのイカれた無限地獄だった」


「……」


 そこで、センは、窓の外を見つめる。

 空は青かった。

 雲が流れていく。


 その穏やかな光景を眺めながら、

 ボソボソと、小さな声で、

 誰かに伝えようとしているわけではなく、

 かといって、自分に言っているかというと、

 それも少し違う熱量で、


「銀の鍵を使えば、全部リセットされる。どんだけ美しい思い出を作っても、俺以外の中からは綺麗サッパリ消え去ってしまう。その虚しさが想像できるか。できねぇだろ。体験しねぇとわからねぇよ。――言っておくが、別に、覚えておいてほしいわけじゃねぇぞ。俺の努力を心に刻んでほしいなんて、そんなみっともないことを考えているわけじゃねぇ。でも、タイムリープした直後、黒木に、毎回、『あなたは誰ですか?』って聞かれるたび、頭の奥で、ズキっと何かが軋んでいるんだ。もし、あいつらと『そういう関係』になったりしたら、その時の痛みは、もっと増える。それが嫌だから、尻込みしている……ああ、わかっている。チキンだって罵られても仕方ねぇ。けど、誰だって、痛いのはいやだろ?」


「なにを……言って……」


 宝生には、センの慟哭が理解できない。

 『センのバックボーン』を理解できるほどの地位にはいないから。

 『センの痛み』が理解できるほどの人生的経験値を積んでいないから。


「言っておくが、俺は、しんどそうなフリをしてるんじゃねぇぞ。しんどいんだよ、死ぬほど。それでも、必死こいて、毎日毎日、這いつくばって生きてんだ」


 歯をむき出しにして、

 自分の感情をぶつけながら、


「ここは、絶対に勘違いしてほしくないところなんだが……『だから称えろ』とか、『優しい言葉で慰めろ』とか、そんなイカれたことを言いたいわけじゃない。『不幸自慢でマウントを取りたい』ってわけでもない。――ただ、『苦しんでんのはテメェだけじゃねぇ』っていう、当たり前の現実ぐらいは理解してもらいたいだけだ」


 そう言い捨ててから、

 センは、逃げるように、

 瞬間移動でその場を後にした。




 ★




 ――瞬間移動した先は、テキトーな校舎の屋上。

 青く澄み渡る空を見上げながら、


「……はぁあ」


 と、重たいタメ息をつきつつ、

 図虚空を召喚して、



「……なんで、瞬間移動させてくれた? 今は、『目の前の現実』からは逃げられないんじゃなかったか?」



 と、簡素な質問を投げかけると、

 図虚空の中にいるヨグシャドーが、

 たんたんと、


「――『独りの時間』も、時には必要だ」


 などと返してきた。


「慈しみのある配慮、いたみいるねぇ」


 嫌味を口にしつつ、


「……ありがとう」


 そこそこ本気の感謝を述べる。


 そんなセンに、

 ヨグシャドーは、


「無邪気に、『純粋な今』を楽しむ覚悟を決めれば、少しはラクになれるというのに。貴様は、あまりにも、無駄なことを考えすぎる」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る