21話 相対的静けさの中で。


 21話 相対的静けさの中で。


「ふふん、いったい、どこに『罰の内容が切り替わった』という証拠があるというのかにゃ?」


「……いや、証拠というなら、契約を交わした証拠を出せよ」


「ここに、契約書があるにゃ」


 そう言いながら、差し出された紙。

 そこには、確かに、

 『茶柱罪華の好きなところを30秒以内に10個言えなかった場合、罰として、閃壱番は、茶柱罪華の足を舐めなければいけない』

 といった内容の文章が、『甲乙どうたら』を含めて、しっかりと記されており、

 彼女のサインと印鑑、

 そして、センのサインと印鑑がぶち込まれていた。


 それにジックリと目を通してから、センは、


「お前は、小ボケに対して、常に全力だなぁ……『一ボケに対する執念』に関してだけは尊敬に値すると本気で思うぜ……つぅか、俺のサインが、べらぼうに似ているな。完全に俺の筆跡じゃねぇか」


「このとおり、証拠はそろっているにゃ! というわけで、さあ、はやく跪いて、『この世で最も美しい女神ツミカ様、ぜひ、わたくしを、永遠の奴隷にしてください』と、世界中に響き渡るぐらいの大きな声で叫ぶにゃぁ!」


「契約内容をころころ変えんな! せめて、ここに書かれていることを要求しろ!」



 ★



 なんだかんだ、ごちゃつきつつも、

 とりあえず、昼休みまでの授業が滞りなく過ぎ去った直後、

 尿意を感じたセンは、


(トイレ行くから、邪魔するなよ)


 と、ヨグシャドーに一言いれて、

 席を立つ。


「どこにいくつもりなのかにゃ? もしかして、また性懲りもなく、ツミカさんを捨ててにげるつもりのかにゃ? そんなの許さないにゃ! この人でなし! 鬼の子! へちゃむくれ! ド変態!」


「トイレに行くだけなのに、なんでそこまで言われにゃならんのだ」


「そんなこと言って、本当は、風俗やパチンコや競馬にいくつもりだにゃ!」


「お前は俺をどういうキャラ付けにしたいんだ」


「終わっている旦那を必死に支える健気な妻! なんてかわいそうで美しいツミカさん! その『はかなさ』が極上に素敵! さすが、世界一の女神様!」


「俺のキャラ付けをしているのではなく、悲劇のヒロインを気取って悦に浸りたいだけだったか……お前の『ブラックホール自己中』は永劫ブレないねぇ」


 などとため息をつきつつ、

 センは、教室のドアをあけて廊下に出た。

 休み時間中なので、四方八方から、高校生のおしゃべりが聞こえてくる。


 ガヤガヤとやかましい。

 センの姿を見た若者たちは、

 センを指さして、コソコソと話し出す。


 軽く鬱陶しいが、しかし、

 茶柱たちに囲まれている時よりは静かな方。

 ゆえに、


(ああ……静かだ……自由で豊かで……やはり、独りは良い……)


 久しぶりのシャバの空気を吸ったセンは、

 相対的静けさの中で、孤高の心地よさを感じつつ、

 ゆっくりとしたペースでトイレに向かう。


 大の方をする気はなかったが、

 より『独りの時空』を満喫したかったので、

 あえて立ちションをスルーして、

 『個室』の中へと逃げ込んでいく。


 座って小を為すことに抵抗がないセンは、

 そのまま尿意を発散させつつ、


(このまま時が止まればいいのに……)


 などと、心の中で、

 ボソっと、アホなことをつぶやく。

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