12話 不退転の呪縛。


 12話 不退転の呪縛。


 センが願う『誰にも理解できない理想の結末』は、

 センの原動力の一つであり、絶望の中の光でもある。


 『とことん、相手と付き合う(向き合う)』

 『お互いを、どこまでも深く理解していく』

 『膨れ上がった想いの置き場を見失って』

 『感情が理性を置き去りにして』

 『その結果として、輝く翌朝を迎える』


 そんな、『少女漫画も裸足で逃げ出すようなエンディング』を、ずっと妄想してきた。


 『そんな妄想をしている』という自分に対して『砂糖漬けのゲロ』を吐きそうになりながらも、しかし、どうしても捨てられなかった理想の未来。


 だからこそ、こんなところでは、捨てられない。

 こんな、下品なほどシッカリと『おぜん立て』された状態で、世界を救うために、というダルい言い訳に背中を押されながら、なし崩しで童貞を捨てるとか……


(ありえない……イヤだ……)


 絶対にイヤだと思いながらも、



「あのなぁ、言うとくけど、こっちかて、色々、不安なんやで。そういう全部を飲み込んで、今、ここで、こういう感じになってんねん。あんま、女に恥かかせんなや」



 トコに、そう言われて、

 センは、クリティカルダメージを受ける。


(いや、うん、わかるよ……言いたいことは、至極ごもっともだし、うん、わかるんだけど……)


 センは、一応、空気を読むことも可能な男なので、

 『女に恥をかかせるのは、いかがなものか』

 という、そういう『普通の配慮』も、

 心の中で渦巻いていたりもする。


(ここまできたなら、もう、はらをくくるべきだ……わかっている……その方が自然と言うか、無理がないというか、おかしくならない……わかっている……全部、わかってんだよ……俺はバカじゃない……いや、もちろん、かなりのクソバカ野郎なんだか……何も見えていないわけじゃないんだ……わかってんだよ……わかってるけどぉおお!)


 『自分の理想を押し付ける』のは恋愛ではない。

 それは、『キチ〇イのエゴ』でしかない。


 そんなことは分かっている。


 けれど、だからって、夢を捨てるのは、本当に正しいか?

 それこそ、逃げているだけなんじゃないのか?


 ――などと、

 センは、頭の中で、ぐちゃぐちゃ、ぐだぐだ、ぐらぐらと、常人には理解不可能な『無駄に重すぎる葛藤』を続けている。


 そんなセンの葛藤が一ミリも理解できない美少女たち。

 彼女たちは、一級の『女』なので、

 当然、センが、『自分達の魅力に惹かれていること』は理解している。


 性同一性障害のように、

 『染色体の問題で、異性に興味が抱けない』とか、

 『そういう話ではない』ということは、

 センの雰囲気から十分に理解している。


 センは我慢をしているだけ。

 その理由が、彼女たちには皆目見当もつかない。


 これは、男と女の違いではなく、

 『センエース』と『それ以外』の違い。


 センエースは、彼女たちの魅力を十分に理解し、

 かつ、その魅力に、正しく惹かれていながら、

 しかし、狂気的な理想のせいで身動きがとれなくなっている。


 これは、決して、『理性による自制』などではない。

 自分の理想でがんじがらめになっているだけ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る